黄金の羊亭新館

ガープスルナルのリプレイを公開しています

最終話【月光蝶】

月光蝶の秘密】

GM  さて、大破壊まで残り51日なわけだが・・・。

ルミノール  リネールさん、帰って来ませんね・・・。

ジェイル  月光蝶の真の名も分からないままか・・・。

GM?  教えて欲しいか?

ジェイル  ? そりゃあな。

GM?  (ククク・・・これで二回目だ。)月光蝶の真の名、それは・・・

GM  古代神聖語の発音で、長い名前が頭の中に流れる。

ジェイル  今の言葉はGMのものじゃない?・・・まさか、俺とカインの記憶との混同が始まってんのか?

GM  (なるほど。そう判断したか。)

ジェイル  薬の数は足りてるよな? 毎巡しっかり飲んでるが。

GM  うん。まだ20本以上残ってる。

ジェイル  一度、所長に診てもらったほうが良いかもな。

GM  さて、そのころのリネールは・・・。

リネール  改造されるのでしたら、体力と生命力を上げて欲しいですね。洗脳は勘弁して欲しいです。

GM  (苦笑)早とちりするのは一行にかまわんが、君はベッドの上で目を覚ます。ベッドもシーツも高級品だし、目覚めは中々のもんだ。

リネール  あれ? ここは・・・

ヒンメル  目が醒めたか?

GM  ベッドの傍らにヒンメルが立っている。手には、ほのかに輝く拳2個分ほどの大きさの石を持っているね。

リネール  慌てて自分の体を調べてみます。何か異常はありませんか?

GM  特にないね。

リネール  何もされてない?

ヒンメル  ほほほ・・・なかなか良かったぞ。

リネール  何がだよ!

ディック  奪われてもうたか・・・。

リネール  だから何を(苦笑)。

GM  ヒンメルは妖艶にニヤリと笑うだけで、その問いには答えない。そして、石を棚に入れる。

リネール  その石は?

ヒンメル  お主の記憶を複写させてもらった。これはその媒体じゃ。

リネール  ・・・一瞬ぶっ壊そうかと思いましたが、いざという時バックアップがあるのは良いことです(笑)。

ジェイル  だが、肉体が死ぬと、他の誰かに記憶を移し変えるしか方法はないぞ。

リューリック  経験者は語るですね(苦笑)。

ヒンメル  安心せい。お主の血液を使って複製人間を創っておる。上手くゆけば、ほぼ完全なもう一人のお主が生まれるぞ。

GM  本来のクローンは卵子が違えば別人になるけど、この技術は魔法的手段で細胞のみからもう一人を創りだす。しかも記憶の移植も可能だから、創られた瞬間は僅かに経験の少ないもう一人の君。その後の経験によって完全に別人になるがな。

ルミノール  101匹リネール量産計画(笑)。

リューリック  してどうするこんな奴(笑)。

ディック  詐欺の被害者が増えるな(笑)。

リネール  そこ!次元を超えた会話をしない!

ヒンメル  しかし、後50日ほど後に、大変なことが起こるみたいじゃのう。

この場にいない一同 !?

リネール  なぜあんたがそのことを知って・・・あ、記憶を覗いたのか。納得。

ヒンメル  もうちょっと驚いてくれても、罰は当たらんじゃろうに・・・つまらぬのう・・・。

リネール  あんたのやることにいちいち驚いていたら、こっちの身が持ちませんよ。

ヒンメル  それはそうかも知れぬがのう・・・。

リネール  しかし、大破壊のことを知っているのならば話は早い。どうか、大破壊回避に協力してください。

ヒンメル  何故わらわが、協力せねばならぬのじゃ?

リネール  あなたにとっても、月光蝶の暴走は嬉しいものではないでしょう。大破壊はあなたにとっても回避したいもののはずです。そして、私たちが知る中で、大破壊の原因となる月光蝶のことを一番良く知っているのはあなたです。あなたに協力してもらえれば、大破壊回避の成功率は格段に跳ね上がることでしょう。

ヒンメル  なるほど。

リネール  別に、人類を救うために手助けをして欲しいと言っているのではありません。あなた自身と、大破壊により心身ともに疲れ切ることになるメイアさんを救って欲しいのです。

ヒンメル  ほほほ・・・聞きしに勝る口の上手さじゃの。しかも、あれほどわらわを嫌うておったお主が、わらわを必死で説得しようとしておる。

リネール  (ボソッと)できれば、今でもあんたとは関わり合いになりたくないですよ・・・。

ヒンメル  じゃが、これからはもっと関わってもらうことになるぞ。

リネール  では?

ヒンメル  よかろう。世界のことはどうでも良いが、わらわやメイアが苦しむ姿は見とうない。お主らに協力してやる。

リネール  ・・・礼は言いませんよ?

ヒンメル  ほほほ・・・お互い利用しあう関係じゃ。そんなものはいらん。お互い寝首をかかれんように、注意せねばのう。

リネール  こっちが一方的に注意しなければならない気がしますがね(苦笑)。では、早速ですが、いくつか聞きたいことがあります。

ヒンメル  まあ、そう急くな。お茶でも飲みながら、ゆっくり話そうではないか。安心せい。今度の茶には薬など入れん。

リネール  ・・・(不安だなぁ)。

 

 海の見えるテラスでお茶を楽しみつつ、ヒンメルは語り始める。<虚空の悪魔>月光蝶。貪欲の魔元帥トルトカが創ったこの<悪魔>の基本的な行動理念は食欲。この世のもの全てを貪欲に貪り続ける化物なのだと言う。<妖将>を越える力があるというのに、知能は低く、そのせいで<悪魔騎士>の座に留まっているのだ。

 そして、様々な能力を持つこの<悪魔>のもっとも恐るべき能力は、殺した者の魂をも砕く力。月光蝶に“食い殺された”者は、いかなる手段を使っても蘇生はすることができなくなるのだと言う。そして、月光蝶の一部でもある蝶一匹一匹がその能力を持っているらしい。

 

GM  ルール的には百鬼夜翔の「非実体にも影響」と「蘇生不能」の増強がされていると思いねぇ。

ジェイル  ・・・ってことは、魂さえ破壊されなければ大丈夫ってことか?

GM  魂が無事でも、肉体が完全に破壊されていたら、結局蘇生できないけどな。

ディック  核爆弾で一番怖いのは放射能やが、熱や衝撃波でも人間は十分死ねるで。

GM  例えとしてはそれに近い…か?(笑)。

リネール  だから、時空を越えた会話はするなって(笑)。

 

 ヒンメルは語りつづける。月光蝶の本体と思われる部分は、その蝶が無事である限り消滅することがなく、何十メイルという広範囲を一瞬にして焼き尽くすような攻撃でもない限り、倒すことは恐らく不可能。月光蝶が復活したならば、封印するか黒の月の門から直接月へ追い返すくらいしか、活動を止める方法は思いつかないと言う。

 それほどの力を持つ月光蝶だが、伝説に語られる<太陽の騎士>テック・マーレンと、稀代の天才ヒンメルの施した二重の封印により、世に放たれる可能性は限りなくゼロに近いのだと言う。それが何故暴走するようなことになったのか。それは分からない。

 だが、彼女は月光蝶をルナルの大地から追い払うため、数十年に一度訪れる、黒の月の魔力がもっとも弱まった時を狙い、中央砂漠にある黒の月の神殿で、黒の月の門のわずかな隙間から、暴れだしても対処可能な程度のわずかな数の月光蝶を月に送り返すという儀式を、もう何百年も続けていると言う。

 双月暦1112年44巡り目の黒の月の日は、まさにその儀式を行う時。未来世界ではその儀式の途中に、何らかのアクシデントが起こったのであろうと推測する。

 

リネール  今回その儀式を中止するというわけには行かないのですか?

ヒンメル  正直、わらわもこんな爆弾を抱えて、この先半永久的な生を続ける気はないのでな。今回は止めても、この儀式は今後も続けていかねばならん。根本原因を究明せねば、大破壊は先延ばしになるだけじゃ。

リネール  では、儀式は行うと。

ヒンメル  無論じゃ。本来この儀式は一人で行うものじゃが、今回は特別に儀式の場にお主らを連れてゆき、儀式を阻害する「何か」を探してもらいたい。

リネール  ・・・他に良い案も浮かびそうにもありませんね。分かりました。仲間たちにもそう伝えておきます。あともう一つ聞きたいことがあります。あなたが行った大量殺戮。あれに意味はあるのですか?

ヒンメル  ほほほ・・・さてのう・・・。

リネール  誤魔化しても無駄ですよ。あなたが殺戮を行う時は、必ず儀式の時期と被ります。何か理由があるようにしか思えません。

ヒンメル  ほう。そこまで調べたか。ならば隠してもしょうがない。儀式の際、腹を空かした月光蝶が覚醒せぬよう、適度に空腹を押さえておく必要があるのじゃ。月光蝶に魂を喰わせるのが、そのもっとも手っ取り早い方法なのじゃ。その際、「善人」すぎる者を食ろうてしまうと、月光蝶はその味を覚えてしまい、それしか食わなくなってしまう。

GM まー、ようするに、メイアに警告をだしてもらって、それを信じて避難するような、「誠実」で「朴訥」な人を食べてしまうと、儀式に支障が出る可能性があるってことね。

リネール  もう一つ。邪術師フィーとあなたの関係は?

ヒンメル  あの邪術師は強力すぎる。儀式も近いこの時期に動かれるのは、何かと危険じゃと判断したまでじゃ。

 

 実はそれだけではないのですが、それはPCたちには知る由もないこと。

 

リネール  ・・・分かりました。

ヒンメル  では、儀式に赴く前に、お主らの元へ寄ることにする。どこに行けばよい?

リネール  カーナー家の住所を教えておきましょう。それと、こっちに来る前に<輝く拳>団本部にメイアさんを迎えに行ってください。それだけ伝えて、立ち去ります。

ヒンメル  久しぶりにいろいろ話せて、楽しかったぞ。

リネール  勘違いしないで下さい。今は確かにあなたの協力に感謝していますが、私はあなたを許す気はないですからね。

GM  君は、ヒンメルが一瞬悲しそうな顔をしたのを見た気がするが、彼女の表情はいつもの邪悪な笑みに戻っている。

ヒンメル  ほほほ・・・わらわとしてもお主のような反抗的な奴の方が、相手をしていて面白い。

リネール  この人の表情は、全て計算づくの可能性がありますからね。感情移入をするのは危険でしょう。

GM  (あ、バレてる。)

リネール  お茶、おいしかったですよ、とだけ言って帰りましょう。・・・今度はドア開きますよね?

GM  開くから安心しろ(笑)。

 

【最終準備】

 五日後、リネールはジョルジュにいる仲間たちと合流。自分の記憶がコピーされたことは隠しつつ、ヒンメルの協力を得たことと、彼女から得た情報を皆に伝える。

 その間、リューリックはカーナー家のコネを使って。ジェイルはマリクの裏世界でそれぞれ<悪魔>を封印すると言われているアイテムを手に入れることに成功する。しかし、ジェイルが入手したものは古代ドワーフ語に訳した<悪魔>の真の名前を呼ぶ必要があるという、非常に厳しい条件でしか使用できるものではなかった。

 

ジェイル  高かったのだがな・・・。

ディック  てか、パチモンつかまされたんちゃうか? 古代ドワーフ語なんか誰も知らんし、古代神聖語の真の名を訳すこともできんから、使えるかどうか試しようがないがな(苦笑)。

 

 実は、メイアが一流学者以上に古代ドワーフ語について造詣が深いのだが、そんなこともPC達が知る由もないこと。もっとも、壷はパチモンなので、言えても意味はありませんが・・・。

 

リューリック  私の<悪魔>を封印する絵画は、古代神聖語で<悪魔>の名前を言えばよいのですよね?

GM  その絵画を譲ってくれた魔術師はそう言っていた。

ジェイル  古代神聖語での名前なら、俺が言えるから安心しておけ。

リネール  私の封魔の瓶も、ランクの高い<悪魔>は名前を言う必要があったはずです。古代神聖語の学習をしましょう。

GM  シナリオ達成の経験点以外での技能の修得には、200時間の学習が必要だ。一日五時間を<古代神聖語>の勉強に使えば、大破壊前日には習得できるな。

リネール  分かりました。今の私の所持金ならしばらくは働かなくても生活できますし、他には特にやることもないので、勉強していましょう。・・・現実でもこれだけ勉強してりゃ、もっといい大学狙えたのになぁ・・・。

GM  いきなりリアルな話をするな!

 

 他の面子も、事前にやるべきことは全て終えたと判断し、霊薬や予備の武器、矢の補充などを開始。霊薬は、ペナルティ付きの「商人」技能の判定に成功した後に、いくつ見つかるかもサイコロで決めたのだが、何故か皆やたらといい目を出し、各種能力増強の霊薬を大量に入手。

 その後、各々思い思いに日を過ごし始める。そして、6巡りが過ぎた・・・。

 

リューリック  散々考えましたがね、キングオブパイレーツは家に置いて行きましょう。もしも月光蝶と戦うことになれば魔法の剣だろうとなんだろうと関係ないでしょうからね。あ、リュード君はキングオブパイレーツに移しておきますから。

GM  (ふーん。いろいろ秘密能力のある剣なのに、置いていくのね。剣の性能を調べなかったのも、持っていかないと判断するのも自由だし、そのせいで死んでも僕の責任じゃないしな。)OK、分かった。

リューリック  1600ムーナの高級石(第7話参照)も置いて行きます。月光蝶に触れると間違いなく溶けるでしょうし(笑)。

GM  いや、それはどうでもいいが(笑)。

ジェイル  それにしても、ヒンメルはいつ来るんだ? 黒の月の神殿まで行くのに20日はかかるって話だが、もう3日前だぜ。

ディック  彼女ほどの大魔術師やったら、特殊な移動手段もあるんやろうが・・・。まさかリネールはん、かつがれたんちゃいまっか?

リネール  その可能性は完全には否定できませんね。正直全然信用できませんが、信じて待ちましょう。

リューリック  その間はずっと、リアナや子どもたちと一緒にいましょう。

GM  リアナは君の様子がおかしいことには気付いているみたいだが、あえて何も言わないでいつも通りに振舞っている。

ディック  つくすタイプの奥さんじゃのう。

GM  いや、いつも通り旦那を尻に敷いている(笑)。

リューリック  婿養子は辛いですよ(笑)。

GM  それからさらに3日後。大破壊の当日昼頃になって、玄関に立ててあるしゃべる絵画の声が響く。この絵画には、飾られた建物内ならばどこにでも声を飛ばせると言う特殊能力もあるのだよ。

ディック  使いようによっては相当便利なアイテムやな。今回のシナリオでは役に立たんやろうが。

絵画  若旦那さま。ヒンメルと言うすごく綺麗な方が訪ねていらっしゃいましたよ。

リネール  ようやく来ましたか。

GM  それを聞くと、リアナは突然震えだす。

リューリック  どうしたんだ、リアナ?

リアナ  ・・・リューリック。最近どうもあなたの様子がおかしいと思っていたのですが、そうですか、浮気していたのですね(ニッコリ)。

リューリック  ま・・・待て、誤解だ!

 

 この後、リアナの誤解を解いたのはディック。最終回までミュルーンの傀儡の座から抜けられなかったリューリックであった(笑)。

 

GM  玄関に行ってみると、ヒンメルがメイアと共に立っている。

リネール  後から迎えに行くつもりでしたが、手間が省けましたね。

ヒンメル  約束通り迎えにきたぞ。もう準備はよいのか?

GM  選択肢「はい」「いいえ」。ちなみに、「いいえ」を選んでも、「よく聞こえんかったもう一度言うてくれ」という答えが返ってくるがな(笑)。

ルミノール  最終準備の確認でそれはないでしょう(笑)。

ディック  準備は万端やで。

リューリック  最後にリアナと子どもたちに会いに行きます。5日もしたら戻るから、行ってきます。

リアナ  また冒険ですか? しばらく大人しかったから文句は言いませんが、気をつけて行ってきてくださいね。ほら、ジークもエルも行ってらっしゃいしましょうね(赤ん坊の手を振る)。

リューリック  では、行きましょう。

ヒンメル  全てが終わったら、この家庭を崩壊させてみるのも面白いかもしれんのう・・・。

リューリック  頼むから止めてくれ。

ヒンメル  もっとも、ここでお主が死ねば何もせずとも家庭崩壊を起こすかもしれんがな(ニヤリ)。

リューリック  無視しましょう。

ルミノール  (ため息)この人なりの励まし方なのかもしれませんがねぇ・・・。

リネール  それはともかく、どうやって中央砂漠へ? 馬車や歩きでは相当時間がかかりますよ。

ヒンメル  飛行艇が街の外に置いてある。それに乗れば半日で中央砂漠の中心、黒の月の神殿じゃ。

ジェイル  すごいものを持ってるな・・・。

ヒンメル  昔、古代遺跡で見つけたものを改造した。乗り心地はよいぞ。

ディック  ほな、皆はん行きまっせ。

一同  おう!

 

 ヒンメルの飛行艇は外見的には光り輝く謎の球体。10人程度しか乗れない小さなものであったが、この人数が乗るには十分。普段ならば楽しい空の旅になるのだろうが、緊張している面々は、一言もしゃべらないまま(ヒンメルは飛行艇の操縦でこの場にいない)目的地まで半分の距離に辿り着く。

 

リュード  どうしたフレンズ! 揃いも揃って通夜みたいな顔しやがって!

リューリック  え?リュード君、置いてきたはずじゃ?

リュード  水臭いぜブラザー、今ごろ俺を置いてきぼりにするなんてよ。

リューリック  でも、死ぬかもしれないのですよ。

リュード  ハッ!やる前からそんな弱気じゃ上手くいくものも上手くいかねーゼ。

ディック  それもそうやな。気負いすぎるのはよくない。

リュード  それに、ゲペルニッチ様が造った他のブラザーが活躍しようって時に、俺が黙っているわけにはいかねーゼ。

ルミノール  ああ、鉄蝙蝠のことですね。

リューリック  わかった。じゃあ、一緒に生きて帰るぞ。

リュード  OKブラザー!

 

【忘れられていた二人】

GM  それから2刻。そろそろ砂漠が見えてくる頃だろう。中央砂漠は、黒の月の門から流れてくる負のマナのせいでできた砂漠だと言われており、仙人掌すらろくに生えない不毛の大地だ。

ディック  完全な礫砂漠なんやろうな・・・。

GM  砂漠に入ってしばらくすると、飛行艇の行く先に、神殿が見えてくる。イメージとしては、インドにある真っ白なことで有名な城だけど…いかん、名前ど忘れした(笑)。

ディック  あ~・・・ワイもちょっとど忘れしたわ。(タージ・マハルである)

GM  ともかく、飛行艇はその神殿の前で止まり着陸する。操縦室からヒンメルとメイアも出てくるね。

ヒンメル  ゆくぞ。わらわについて来るのじゃ。

GM  ヒンメルは飛行艇から降りると、空間に穴のようなものを開けてそこに飛行艇を隠すと、神殿に向かって歩き出す。

リューリック  素直について行きましょう。

GM  神殿の門の前で、ヒンメルが手をかざすと重そうな扉が大きな音を立てて開く。扉が開いたときに、中から流れ出てきた風は、人の心を陰鬱にしてしまうような生暖かい風。扉が開いた後の神殿を見ると、その真っ白な外観も邪悪なもののように見えて仕方がないほど、邪悪な雰囲気が漂ってくる。

ディック  みんな、深呼吸するんや。闇に飲まれたらあかんで。

ルミノール  もちろんですよ。

ジェイル  しかし、扉を開いたら雰囲気が変わるってのはどういうことだ?

GM?  理由を知りたいか?

ジェイル  そりゃもちろん。

GM?  (これで三回目だ。だが、今はその時ではない。)この神殿は黒の月の神殿などと呼ばれているが、実のところ最深部にある黒の月の門の魔素が外に漏れないようにするために造られた建物だ。だから、普段は神聖な雰囲気を漂わせているが、扉を開くことによって流れ出す魔素が、それを浴びた人の心を陰鬱にさせ、建物が邪悪かのように錯覚させるのさ。

ジェイル  つまりは、ただの気の持ちようってことか。

GM  ヒンメルは無言で神殿の奥へと向かう。迷路状になっているが、まったく迷う様子はない。

リネール  何度もここに来ているみたいなことを言っていましたからね。道を覚えているのでしょう。

ルミノール  必死について行きましょう。

GM  三分の一刻も歩かないうちに、神殿入口の門よりもはるかに豪奢で複雑な文様の書かれた扉がある。君たちは直感的にその扉の奥はやばいと感じるね。

ジェイル  この奥に黒の月の門があるんだな・・・。

GM  今まで始終無言だったヒンメルが、何かを呟きながら扉に触れる。そして、しばらくその呟きが続いたかと思うと、扉が開く。中は50メルー四方はある大きな空洞になっていて、その中央には、黒い穴としか表現できないなにかがある。その穴の中から濁流のごとく嫌な気配が流れてくるから、ジェイル以外は意志判定。大きく失敗すると、大変なことになるよ。

リネール  あれが黒の月の門ですね。・・・意志判定は余裕で成功しました。

リューリック  私が一番やバイですね・・・何とか成功しました。

ディック  ワイもや。

ジェイル  何で俺だけ判定不要なんだ?

GM  ああ。君はこの魔素を浴びるまでもなく<悪魔>化するからだ。

一同  何!?

ジェイル  せめて抵抗はできんのか?

<悪魔>の声  貴様はすでに我が問いかけに3度イエスと答えた。

ジェイル  いつの間に!?

<悪魔>の声  一度目は、月光蝶の弱点。二度目は、月光蝶の真の名。三度目は、神殿の魔素についてだ。

ジェイル  あれはてっきりGMやヒンメルの言葉かと思ったんだがな・・・。

ディック  無駄やで。<悪魔>ってのは人を騙したりするんは大得意や。あんさんはまんまと<悪魔>に騙されとった言うわけや。

GM  ジェイルの体は突如剛毛に覆われ、体も二回りは大きくなる。鉤爪や鋭い牙が生え、その様相は狼男の如く。しかし、本来目があるであろう部分に目がない。

ヒンメル  ほほほ・・・心弱き者が早くも一人取り込まれたようじゃのう。メイア。

GM  メイアは無言でジェイルだったものの方に向かう。

リネール  ちょっと待ってください。まだ一度目の変身ですから、術者の意志で元の姿に戻れるのでは?

GM  記憶がまだカインのものだった時に一度変身しているから、これは二度目の変身だ。元に戻りたければ<悪魔>との意志の即決勝負に勝つ必要がある。

ジェイル  だったら、戻りたいと強く念じましょう。

GM  よかろう。意志の勝負はこっちの負けだな。君は何とか元に戻れる。

ジェイル  俺の精神力を舐めるなよ。

リューリック  しかし、ここに長居するのは危険ですね。いつまた<悪魔>が活性化するか・・・。

ディック  ジェイルはん。これから何を言われても肯定の返事をしたらあかんで。なにが<悪魔>の誘惑かわからへんでな。

ジェイル  分かった。

ルミノール  これで一回目ですね(笑)。

GM  さすがにそれはないが、二度目の変身だったからな。いつ<悪魔>が君の体をもう一度乗っ取ろうとするかは分からんぞ。それにもう一度変身したら二度と戻れない。

リネール  ヒンメルさん。早く儀式を終わらせてください。私たちは周辺の見張りに立ちます。

ヒンメル  よかろう。・・・あまり人に見せたくないものなのじゃがな・・・。

GM  ヒンメルは口を大きく開け、その中に自分の手を入れる。

ヒンメル  (体をくの字にまげて)おぇぇぇぇえ!

リネール  確かにこれは、人に見られたくはなかったかも・・・。

GM  荒い息を吐きながら、ヒンメルは口から手を取り出す。その手には、ほのかに光る小さな檻のようなものに入った、青白く発光する胎児がある。

リューリック  それが月光蝶

GM  っと、その瞬間、黒の月の門の左右の床より二人の長身痩躯の白い影が踊り出て、ほぼ同時に何事かを叫ぶ! その言葉は月光蝶の真の名!

一同  何!?

GM  ヒンメルの掌から、胎児は飛び出し、影の片割れの手に収まる。

影A  やったね兄さん!久々の登場で大金星だよ。

影B  そうだな弟よ。

リネール  ツウィン兄弟!

ツウィン弟  どうやら、僕たちのことを覚えていたみたいだね。

ツウィン兄  途中から話題にすら上らなかったくせにな。

ディック  そういやおったなぁ、こんな奴ら。

リューリック  月光蝶インパクトが強かったせいで、存在を忘れていましたね(苦笑)。

ルミノール  覚えてはいましたが、まさかこのタイミングで仕掛けてくるとは思いませんでした。

ジェイル  ちょっと御都合すぎないかGM?

GM  闇ルート使ってヒンメルのことを調べれば、この二人の名が上がったんだがな。

ジェイル  (舌打ち)あの時、調べておくべきだったのか。

ディック  いまさら仮定を言ったところで始まらんで。

ツウィン兄  さて、君たちには新生ツウィンズの最初の生贄になってもらうとしようか。

GM  月光蝶を手にしたツウィン兄は、それを飲み込む。

ツウィン兄  とうとう手に入れた、月光蝶

GM  ツウィン兄の背中に、巨大な青い蝶の羽が現れる。

ツウィンズ  フハハハハ! 素晴らしいぞこの力!

リネール  あなたたちに使いこなせる力ではありませんよ!乗っ取られるに決まっています!

ディック  なるほど。月光蝶が暴走した原因はそれやな。

ヒンメル  貴様・・・その力、返してもらうぞ。

GM  ヒンメルの背中にも、巨大な青白い蝶の羽が出現する。

ルミノール  ヒンメルさん落ち着いて!

GM  もはや君たちの言うことは彼女の耳に届かない。メイアもツウィン兄に向かって行く。

ディック  知的な人や思っとったが、意外と直情型なんやのう。幸い広範囲月光蝶は使わんみたいやが。

リネール  <悪魔>が暴走をはじめる前に、ツウィン兄を倒して月光蝶を奪い返せば、あるいは・・・。

リューリック  では、私たちも加勢しましょう。

ツウィン弟  おっと、兄さんの邪魔はさせないよ。

GM  君たちの前にツウィン弟が立ち塞がる。そしてジェイルよ。

ジェイル  <悪魔>が俺の体を乗っ取りに来るんだな。

GM  その通り。<悪魔>と君の意思力の勝負だ。負けの値のトータルが10に達すると、君は<悪魔>化。勝ちの値のトータルが10に達すれば、一時的だが<悪魔>は押さえられる。まあ、君に憑いた<悪魔>は君より意思力低いがな。まずは一回目。・・・あ、出目がいい。成功度は5だ。

ジェイル  ・・・あ、ファンブル。失敗度5。

一同  ・・・・・・。

GM  ・・・・・・。

一同  ドアホおぉぉぉぉ!!!

GM  じゃあ、ジェイルの意識は抵抗(?)虚しく、<悪魔>に乗っ取られる。これからは<悪魔>としてPCたちを存分に苦しめてやってくれ。

ジェイル  (妙に嬉しそうに)了解。

ルミノール  ジェイルさんが<悪魔>化したのは分かります?

GM  そりゃ分かるよ、君は隣りにいたからね。

ルミノール  では、ジェイルさんを押さえに行きましょう。ツウィン弟は任せました。

リューリック  おう! あ、鉄蝙蝠に鎧に寄生するよう命令しておく。

GM  了解。鉄の蝙蝠が君の背中に降り立ったかと思うと、プレートアーマーと融合を始める。その姿は翼ある漆黒の騎士

リューリック  仮面ライダーナイト?

GM  そんなイメージで結構。じゃあ、戦闘開始だ。

 

 先手を取ったのはツウィン弟。両手に構えた短剣で、フェイントからの喉狙い攻撃をリューリックに繰り出すが、ただでさえ硬い鎧に、鉄蝙蝠の防御効果も加わって全くダメージが通らない。

 しかし、リューリックの攻撃も半透明化回避の前には無力。実はキングオブパイレーツは、不完全ながら非実体をも切り裂く力があったのだが、持って来ていないのだからPCたちがそれを知ることはできない。リネールは《火球》を準備し、ディックはツウィン弟にフェイントなんぞをかけてみるも、戦闘技能の差が大きいため全く無効。デビルジェイルを押さえに行ったルミノールは、デビルジェイルに組み付かれてしまい防戦一方。デビルジェイルもダメージが振るわず、ルミノールに有効打を与えられないでいる。

 一方の戦闘が停滞している間、もう一方のバトルも同じような状況だった。まずメイアがアクロバットからの飛び蹴りを放つも、ツウィン兄は透明になり回避。勢い余ってツウィン兄の後ろに着地したメイアに対し、ツウィン兄は即座に実体化して月光蝶の羽で攻撃。しかし、メイアは背中に目があるかのように華麗に前転し、それを回避。お互いに振り向き合い、ツウィン兄がフェイント後、喉狙いの攻撃を仕掛けるが、メイアの喉をねらった短剣は、手刀で逆にへし折られ、メイアはツウィン兄の喉に手刀を放つ。しかし、それもツウィン兄は半透明になり回避。続くメイアの後ろ回し蹴りも空を切る。

 

ディック  むう・・・目で追うのがやっとの戦いやのう。

リネール  しかし、メイアさんと互角に戦うツウィン兄がすごいのか、月光蝶を有したツウィン兄と渡り合えるメイアさんがすごいのか・・・。

リューリック  答え。どっちも化物(笑)。ここにもう一人化物がいますがね。

デビルジェイル  俺のことか?

GM  ちなみに、ヒンメルはメイアが自分の月光蝶に巻き込まれるのを恐れてか動けない状態。ツウィン兄は予備の短剣を取り出す。メイアの後ろ回し蹴りは、フェイントの成功度20とかで放たれるが、ツウィン兄は攻撃が来る前にずっと半透明になっていれば回避できるため、ほとんど意味がない。ツウィン兄の短剣攻撃を「柔道」で受けた後、そこからダメージ投げや関節技に繋げようとしても、ツウィン兄が半透明になってしまえば組み付きは解除される。

リネール  まさか、メイアさん押され気味?

ディック  お互い有効な攻撃手段がないみたいやが、当たれば死ねる月光蝶がある分、ツウィン兄の方が有利かもしれん。

 

 ツウィン弟&デビルジェイルvsPCの戦いは、ディックの助けを得てルミノールがデビルジェイルから解放された以外は相変わらずの停滞が続く。

 ツウィン兄の攻撃をかわしながら、メイアは何かに集中。させじと月光蝶の羽と短剣で攻撃を続けるツウィン兄だが、メイアはことごとく回避する。そして、メイアの目が開かれたと思うと、今までほとんど無言で拳を振るっていた彼女が、裂帛の気合を上げる。そして両掌をツウィン兄に向けて突き出す。ツウィン兄は半透明になりそれを回避しようとするが、何故か半透明になったツウィン兄の体が後方ヘ吹っ飛ぶ。

 

一同  え?

ルミノール  何が起こったのですか?

GM  それは君たちには分からない。ツウィン兄にとってもそれは同じなようで、実体化して口から血を吐きながら困惑の表情を浮かべている。兄のピンチに、君たちと戦っていた弟は、半透明になって床の下へ潜って移動。兄の側に現れる。

一同  ・・・・・・。

GM  ん? どうした、黙り込んで。

リューリック  ツウィン弟の移動した場所、よく見て下さい。

GM  ん? 別に変なことはないと思うが?

ディック  そこ、ヒンメルはんの真後ろやで。

GM  ・・・・・・あ。

リネール  もろに月光蝶の羽に巻き込まれていますよ。月光蝶の羽って魂も砕くのですよね?

GM  ・・・・・・(無言でダメージを算出。)

ツウィン弟  しまっ・・・グワァァァァア!!

 

 ツウィン弟、消滅・・・

 

GM  月光蝶に喰わる一瞬に、ツウィン弟のサングラスが取れる。その瞳は片方は漆黒だが、もう一方は緑色の瞳だった。

リネール  は? どういうことです?

GM  それは君たちには分からない。ただの目の錯覚かもしれない。

ディック  強敵やったが、終わるときはあっけないもんやな。

デビルジェイル  (嬉しそうに)なに? ひょっとして俺がラスボス?

GM  (そうはいかん。)痛みで動きが鈍くなっているツウィン兄に止めを刺そうとメイアが近づくと、ツウィン兄の月光蝶が突如大きくなる!

リネール  取り込まれた!?

ヒンメル  いかん! この場から逃げるのじゃ!

ディック  ここは従うのがベターやな。幸いデビルジェイルは転倒しとるし、神殿の外に逃げるで。

ルミノール  私も逃げましょう。

リネール  左に同じ。

リューリック  右に同じ。

デビルジェイル  俺も起き上がってから逃げる。

GM  逃げる途中、ツウィン兄に近くにいたため巨大な月光蝶に巻き込まれそうになったヒンメルをメイアが抱え、それを阻止。その後、ヒンメルの《瞬間移動》で二人同時に消える。

リューリック  あの二人、ほんとに逃げやがった!

ルミノール  今はそんなことより、自分達が助かる方法を探しましょうよ。確か、神殿の外へ続く道は迷路になっていませんでしたか?

ディック  安心せい。ワイが「方向感覚」持っとるで、道に迷うことはあらへん。

リネール  では、ディックさんについて行きましょう。

 

【<虚空の悪魔>月光蝶

GM  (BGMを流しつつ)何とか無事神殿から抜け出すと、そこにはヒンメルとメイアがいる。神殿の方を振り向くと、後ろ半分が月光蝶の羽により消滅。さらに、羽のいたるところから、無数の青い蝶が四散して行くのが見える。

ディック  あかん。このままではこの世界が、未来で見た世界と同じようになってまう!

リネール  二人とも、大丈夫ですか?

ヒンメル  わらわは大丈夫じゃが・・・

GM  メイアの方は、ヒンメルを庇ったときに月光蝶に巻き込まれたのだろうか、右の膝から先がない。

ヒンメル  すまぬ、今は<瞬間再生>が使えるほど、エネルギーが残っておらぬ。

メイア  心配無用だ。これでも雑魚の相手ぐらいはできる。

リューリック  雑魚?

GM  黒の月を封じている神殿が壊されたからね。低級の<獣の悪魔>が、そこいらにある適当な物体に乗り移り半実体化していて、そんな連中が何十、何百という群れになって向かってきている。さらに、月光蝶が動き出したらしく、全長1メイルはあるのではないかと思われる巨大な翅が、ゆっくりとだが君たちのほうに向かってくる。それにともない神殿の消滅も進み、建物のバランスが崩れて崩壊。

 

 その瓦礫を登って現れたのは、巨大すぎる蝶の翅を持ち、左足が欠け、右肩から袈裟懸けに線を引き、そこから上がなくなっている青白い少年。

 

GM 崩壊した神殿の瓦礫の中からデビルジェイルも出てくるね。

ルミノール  厄介なことになってきましたね。

リネール  もう使えるかも知れません。封印の瓶を取り出し、月光蝶の真の名を叫びます!

GM  すると、無数の蝶が瓶の中に吸い込まれ始める。

ディック  いけるか?

GM  かなりの量を吸い込んだと思ったら、突如瓶にひびが入り、次の瞬間には砕ける! 許容量をオーバーしたみたいだ。

ディック  むう、ダメか。絵画と壷はジェイルはんが持っとるしのう(苦笑)。

ヒンメル  やはり、生半可なアイテムではダメのようじゃな。

リューリック  淡々と語っていないで、なんとかあいつを倒す方法はないのですか?

ヒンメル  慌てるな。奴の後ろを見るがよい。

ルミノール  見てみましょう。

GM  青く透けた羽の向こう側に黒の月の門が見える。

リネール  なるほど。あそこまで押し返せば良いのですね。

ディック  どうやって?

ヒンメル  奴は実体を持った<悪魔>じゃ。物理的手段で跳ね飛ばすこともできるじゃろう。幸いあの翅には重量がないからな。かなり軽いぞ。

リューリック  なるほど。

ルミノール  では、今のうちに霊薬を飲んでおきましょう。

 

 リューリックは<戦士><筋力><無敵>*1、ルミノールとリネールが<戦士>と<筋力>、ディックが<戦士>の霊薬を飲み、それぞれが大幅にパワーアップする。そしてリネールはリューリックに向けて《倍速》の集中に入る。

 

ヒンメル  わらわは虚空に漂う月光蝶の群れを押さえてくるとしよう。

リネール  お願いします。群れの攻撃も、蓄積すれば大きなダメージになりますからね。

GM  メイアは目を閉じて何かに集中。次の瞬間、メイアの全身を白金色のオーラが包む。

ルミノール  スーパーサイヤ人!?

ディック  KKDかもしれんな。

GM  ルール的には明鏡止水の境地に近い(ガープスパワーアップ武狭ルール「無念無想の境地」参照)。彼女は<獣の悪魔>の群れに向かう。でも、さすがに一人で全てを相手することはできないので、何匹かは君たちに相手してもらうことになる。

ディック  雑魚の相手は任せとけ。

GM  さて、戦闘開始・・・の前に、地中から突如ローブを来た人型の何かが現れる!

ルミノール  今度はなんですか~!

ローブの人影  ほう。お主らに最後の別れを告げにきたのだが、どうやらとんでもない場面に出くわしたようだな。もはやこの歴史に用はないが、わしの記憶となった者とのよしみじゃ。手伝ってやろう。

リネール  ギルーファ!?

GM  ギルーファがローブを脱ぎ捨てると、そこには岩のような材質のブレストプレートとヘルムが宙に浮いており、ブレストプレートの空洞部分からは、木の枝とも触手ともつかない無数の何かが蠢いているという姿の怪物が現れる。触手の隙間から見え隠れする、胴体下にある黒い球体は、どことなく黒の月の門を連想するね。

ルミノール  それがギルーファの真の姿なわけですね。

ギルーファ  <緑の魔神>の力、久々に振るうとしようか。

ディック  みんな、負けたらこの世界の未来はない。何としてでも月光蝶を止めるで。

リューリック  元より負ける気なんてありませんよ。

リュード  その意気だぜブラザー!

ルミノール  ご先祖様、月でこの戦いを見守っていてください。

リネール  やれるだけ、やってみましょう。

ディック  ほな、みんな行くで!

一同  おう!

デビルジェイル  フフフ、愚か者どもが向かってきおる(笑)

GM  (楽しそうだよなコイツ)正面からは、ゆっくり前進する月光蝶と、デビルジェイル。後方からは、仙人掌タイプ、蜥蜴タイプ、蠍タイプの<獣の悪魔>が一匹づつ襲い掛かってくるという状況だ。では、最終決戦開始!

リューリック  月光蝶は私に任せてください。皆は雑魚悪魔がこっちに来ないよう牽制をお願いします。

ディック  分かった。

ギルーファ(リネールのPL)  ならばわしは、あの人狼のような<悪魔>の相手をするとしよう。

デビルジェイル  おお! 怪獣大決戦(笑)。

GM  (おいおい。月光蝶相手に、リューリック一人で挑む気か?)

 

 第一ターン。行動順が一番早いリューリックだが、リネールの《倍速》のために待機。ギルーファはそんなリューリックに《盾》の呪文の集中に入る。デビルジェイルも自分自身に《すばやさ》をかけるため集中に入る。そして、リネールはリューリックに《倍速》をかけた後蠍タイプへ、ディックは仙人掌タイプ、ルミノールは蜥蜴タイプを相手にするためそれぞれ移動する。《倍速》のかかったリューリックは、月光蝶に近づくため移動。この移動により、リューリックと他メンバーとの距離が大きく離れる。

 

GM  (もしリューリックが倒れたらどうするつもりなんだ?)<獣の悪魔>たちも、こっちに向かってきた連中をそれぞれを迎え撃つため移動だ。月光蝶は一歩前進。それと共に(サイコロを一つ振って)3匹の、半透明の大きなフェリアみたいなものが月光蝶の羽の中から出てくる。ガラス細工のような顔には邪悪な笑みを浮かべている。そいつらはリューリックを囲むように移動する。

リューリック  そいつらどんな攻撃を行ってきそうですかね?

GM  見た目は爪も牙もない。しかし背中に生えている翅は、かなり小さいが、月光蝶のそれにそっくりだ。

デビルジェイル  プチ月光蝶だな。

リューリック  次のターンにはギルーファの《盾》もかかりますからね。無視しましょう。

 

 第二ターン。リューリックはギルーファのフルパワー《盾》を待った後にさらに前進。月光蝶を武器の射程内に捕らえ攻撃するが大振りでは外れ。二回目の行動での攻撃は命中させ、月光蝶をわずかではあるが後方ヘ跳ね飛ばす。

 

GM  跳ね飛ばされた衝撃で、月光蝶の羽がフィールド全体を取り囲むような形になったね。

ディック  まさか、蝶の羽が完全に内側に閉じられることはないやろうな?

GM  (蝶の翅でさすがにそれはないけど、)さあね(ニヤリ)。

 

 ギルーファは、木の枝のような無数の触手を、呪文に集中しているデビルジェイルの両手両足に絡ませる。デビルジェイルはそれを振りほどこうとするが、いかんせん絡まれた触手の数が多すぎ失敗。ディックとリネールは、相対している<獣の悪魔>にフェイントをかけ、相手の隙を誘うことに成功。ルミノールはシャイニング・サンを蜥蜴タイプの胴体にめり込ませ、大ダメージを与える。<悪魔>たちは、それぞれの得意技(仙人掌タイプは鎧の隙間に命中する可能性のある毒針、蠍タイプは左右の鋏で動きを封じての噛みつき&毒針、蜥蜴タイプは顔面に命中させることで視界を奪う砂のブレス)でそれぞれの相手を攻撃するも、極限にドーピングされた面々には当たらない。

 

GM  月光蝶は、右手を掲げると、掌に青い蝶が集まり、三本の光の筋となってリューリックに襲い掛かる。(ころころ)全弾命中。

リューリック  げ! でも《盾》がかかっているから・・・よし!全弾回避!

GM  (えーっと、射線上には誰もいないから、誤爆はしないっと。しまったな。先にプチ月光蝶を動かしておくべきだった。)攻撃と同時に羽がゆっくりと動き、月光蝶の後ろに広げられる。

一同  (ほっ・・・)

 

 プチ月光蝶は、リューリックを取り巻くように配置が終了。GMは、密かに<悪魔>側の援軍の出現判定を行うが、誰も現れない。しかし・・・

 

GM  ヒンメルだけで、月光蝶の群れを完全に押さえ込むのは無理だったようで、数は少なめだが蝶の群れが戦闘フィールドに到達する。毎ターン生命力で抵抗してくれ。失敗すると1D-3、最低一点のダメージを受ける。成功してもダメージは半分になるだけだが、ダメージ0という可能性もあるから。今回は目に鱗粉が入っても、完全な盲目にはならない。

ディック  怯むこたないで。ヒンメルはんとの戦いん時に比べりゃ、よっぽどましや。

 

 第3ターン。リューリックは《倍速》の二回行動で月光蝶をさらに後方ヘ押しのける。ギルーファは触手に絡まれたデビルジェイルを持ち上げた後、黒い球体から巨大な木の根のようなものを出し、デビルジェイルに叩きつけダメージを与える。しかし、強靭な<悪魔>の生命力は、その程度ではくじけない。デビルジェイルは振りほどくのを諦め、超音波で標的を砕く必殺技、命名デビルボイスでギルーファを攻撃し、ダメージを与える。ディックとリネール、ルミノールはそれぞれが戦っている<獣の悪魔>に手痛いダメージを与える。<獣の悪魔>の反撃はまたも当たらず終い。月光蝶は再び掌から青く輝く光線を放つ。

 

リューリック  (ころころ)よし!また全弾回避しました!

GM  (ニヤリ)君が華麗にかわした月光蝶ビームは、後方にいたプチ月光蝶に命中する。

ルミノール  お、ラッキー。

ディック  ・・・いや、あかん!あのプチ月光蝶は、きっとリフレクターや!

GM  ご名答。プチ月光蝶に当たった三条の光線は分裂し、リューリック、ルミノール、ギルーファに向かって飛んでいく。リューリックの場合は跳ね返ってくるってのが正しいが。リューリックは後方、ルミノールは側面から攻撃されたとして回避行動を行ってくれ。ギルーファは360度視界が利くのでペナルティなし。

 

 リューリックは奇跡的な出目でこれを回避。他二人は光線の直撃を食らい、ルミノールは生命力が半減し、ギルーファはかすり傷を追う。

 

リネール  この光線は凝縮された月光蝶ですか?

GM  そういう設定。

 

 このターン月光蝶の群れによりリネール、ディックが大きなダメージを受け、リューリックとデビルジェイルはダメージなし。他の面子はかすり傷を負う。<悪魔>の援軍は今回も出現せず。

 第4ターン。リューリックは、両手剣を横殴りに振るい、月光蝶をさらに後退させるも、羽が再び内側に閉じ始めたため、完全に閉じてしまうことを恐れ二回目の行動を忙殺される。ギルーファは巨大な根でデビルジェイルをぼこ殴り。反撃のデビルボイスも簡単に回避する。

 

デビルジェイル  ここまで圧倒的とは思わなかった・・・。

ギルーファ  <盲獣の悪魔>如きが魔神に勝てると思うたか。

ディック  (デビルマンのテーマ調に)あ~くまのちから~、役~立たず~(笑)。

デビルジェイル  歌うな!

 

 デビルジェイルは高い移動力を利用して距離を取り、長射程かつ命中レベルの高いのデビルボイスや長射程魔法で攻撃する戦法が強力な遠距離型。近接戦も弱くはないが本領発揮できない。もっとも、GURPSに慣れていないジェイルのPLが、初見でその能力を理解するのは無理な話ではあるが…

 ディックとルミノールは<獣の悪魔>にさらなる深手を負わせ、リネールは幻惑的な剣さばきで、蠍タイプの固いガードを崩す。<獣の悪魔>の攻撃は、相変わらず通用せず。ディックの歌ではないが、ドーピング戦士たちの前には雑魚<悪魔>の力は全くの無力のようだ。

 月光蝶はまごまごしているリューリックの方へ一歩進み、羽からさらに二体のプチ月光蝶を召喚。後方からの援軍は今回もなし。そしてこのターン、月光蝶の群れにより仙人掌タイプと蜥蜴タイプの<獣の悪魔>が黒の月に送還。PC側(デビルジェイル含む)の被害は微少だが、少しづつでも着実にダメージを受けるほど怖いことはないことを知っているディックは、恐怖を覚える。

 第5ターン。羽が後方に戻った月光蝶に向け、リューリックは渾身の二連攻撃。月光蝶を一気に3メルー後退させ、黒の月の門まで残り5メルーというところまで月光蝶を追い込む。

 デビルジェイルはギルーファに殴られつづけ、残り生命力が3分の1を切る。デビルボイスも残り二発しか撃てないため、温存することに決め、触手の引きちぎりを試みるも、十数本絡みつかれている内3本を切るに止まる。フリーになったディックはプチ月光蝶退治に走り出し、ルミノールは装甲の硬い蠍タイプを倒すため、リネールとバトンタッチ。大振りだったが、渾身の一撃は蠍の装甲を粉々に砕いた。リネールもディックと肩を並べてプチ月光蝶退治に向かう。五匹のプチ月光蝶は、思い思いに配置場所を移動。月光蝶はプチ月光蝶に向けて光線を放ち、複雑な反射の後、全ての光線がリューリックに向かってくる。

 

ディック  あかん!右側面のものは何としてでもかわせ! その位置で喰らうと、月光蝶の翅に突っ込む!

リューリック  げ!・・・ふう・・・何とか後方からの一撃を喰らうだけでした。

 

 しかしこの攻撃で、リューリックは転倒する。しかも・・・

 

GM  (援軍判定をっと・・・お、来た来た)メイアさんが戦っている方角から、さらに2体の<獣の悪魔>が向かってくる。砂が人の形をとっているもの、砂人タイプと、さっきもいた仙人掌タイプだ。

リューリック  メイアさんは何やってるんだ!

GM  片足負傷状態で、百匹近い<悪魔>と戦ってるが? なんだったら戦いやめて全部こっちによこそうか?

リューリック  ごめんなさい。遠慮しときます。

ルミノール  リネールさんか、ディックさん! 戻ってきてください!

リネール  私が戻りましょう。ディックさんはプチ月光蝶の相手を頼みます。

ディック  分かった。

 

 このターンも月光蝶の群れにより、リューリック以外のPCはわずかながらのダメージを受ける。

 第6ターン。リューリックは起き上がり、月光蝶を吹っ飛ばそうとするも、スウィングの威力が足りず失敗。ギルーファはデビルジェイルを殴りつづけ、デビルジェイルは瀕死に追い込まれる。そこで・・・

 

デビルジェイル  そこで一緒に走っている、ディックとリネールに対して、死の咆哮(デビルボイスの本当の名前)!

リネール&ディック  何!?

ギルーファ  ぬぅ!? 不覚!

デビルジェイル  丁度良い時に射程内に入ってきてくれたぜ。俺をこんな体で蘇らせたことを後悔しながら死ね!

GM  ノリノリ(死語)じゃのう(苦笑)。

 

 この攻撃でリネールは生命力がマイナスに突入し、そのまま気絶。ディックも痛みで意識が朦朧とする。これにより、リューリックにかけられた《倍速》の効果も止まってしまう。ディックは朦朧とする意識を奮い立たせ、ふらつきながらもプチ月光蝶に隣接。ルミノールは新たに現れた砂人の方へ向かう。

 

GM  さすがに知能の低い月光蝶でも、リューリックのさっきからの異常な回避は魔法のおかげだと気付くわな。つーわけで新たな能力。月光蝶が左手をリューリックに向けてかざすと、リューリックから一条の光が流れ出る。

リューリック  何が起きるのですか?

GM  月光蝶の呪文の精度と、ギルーファの《盾》の呪文レベルとで勝負だ。

ギルーファ  (ころころ)む・・・イマイチの成功度。

GM  じゃあ、その流れ出た一条の光は、月光蝶が吸収。以後《盾》の呪文は月光蝶にかかっているものとして扱う。

気絶中リネール  呪文吸収? そんなものありましたっけ?

GM  ガープスグリモアにある《呪文奪取》によく似た魔法だ。

気絶中リネール  なるほど。《盾》のカットはできますか?

GM  通常どおり、一行動使って呪文を停止させることはできる(注:公式ルールではできないが、これは弱体化したよく似た魔法扱い。)。

ギルーファ  ならば、まずデビルジェイルを始末した方がよさそうだな。それに、今までの戦いを見る限り、月光蝶はほとんど回避動作が行えないようだ。

GM  (ま、そう思うのは当然だわな。でも、5点の受動防御は無茶苦茶大きいぞ。)そして、プチ月光蝶の後ろを取ったディック君。

ディック  なんや?

GM  プチ月光蝶の背中の翅が大きくなって、君に触れようとする。

ディック  ぬぉ! 月光蝶の翅攻撃の可能性をすっかり失念しとった!盾で止めたりはできるんか?

GM  さあ? やってみないと分からないんじゃない?

ディック  くぅ・・・ここは後退してよけるのが一番安全か・・・。

気絶中リネール  累積ダメージが大きいときは、我慢強くない限り、よけにかかるペナルティはすごいですよ。

ディック  せやけど、止めれへんくても直撃やでな・・・ええい!ここは後退してよけちゃる!(ころころ)ファンブル(泣)。

デビルジェイル  散々悩んだ意味が全くなかったな(苦笑)。

 

 プチ月光蝶の翅はダメージ自体はたいしたことはないのだが、小さなダメージが累積していたディックは、生命力がマイナスに突入する。さらに、月光蝶の群れは意識を失ったものにも容赦なく襲い掛かり、生命力を削っていく。しかし、今回もリューリックだけはダメージを受けなかった。

 第7~9ターン。ディックは気絶し、デビルジェイルは死と引き換えの一撃で気絶していたリネールに止めを刺す。デビルジェイルの死でフリーになったギルーファだが、蠍タイプと援軍で現れた2体の<獣の悪魔>の相手に向かう。

 

GM (リューリックが倒れたらどうするつもりなんだろうな、ほんと…)

 

 ルミノールも、物理攻撃があまり有効でない砂人相手に苦戦する。回避率が下がったリューリックは、何故か途中から4条になった光線の洗礼を浴び生命力がマイナスになりながらも、気力を振り絞り、黒の月の門まであと2メルーというところまで月光蝶を追い詰めた!

 そして第10ターン・・・

 

リューリック  なんとか気絶はしませんでした。これ以上長引くと不利! ここで一気に決着をつけてやる!防御を捨てて全力攻撃、二回切り!

 

 薄れゆく意識を気力で奮い立たせ、リューリックは剣を振るった。最初の一撃は有効打となり月光蝶をさらに後退させる。

 

気絶中ディック  よっしゃ行ったれ!

リューリック  これで最後だ! 命中!

GM  (無言でテーブルの上にサイコロを転がす。・・・出目は12)あ、攻撃反れたわ。

一同  は?

気絶中リネール  ちょっと待てGM! さっきから回避のサイコロ9とか10とかで攻撃当たってただろ?

GM  そうだね。

気絶中リネール  だったら何で・・・

GM  (無言で月光蝶の後ろのヘクスを指差す。)

気絶中リネール  ・・・あ。

気絶中ディック  (ため息)予測しとくべきやったな。黒の月に体が触れとりゃ、<悪魔>は強くもなるわ・・・。(悔しそうに)急いて事を仕損じてもうたか・・・。

ルミノール  光線の数が増えたのも、黒の月に近づいてからでしたしね・・・。

GM  ここまで接近すれば、回避率は《盾》の分もあわせて14だ。そう簡単には失敗しない。

気絶中リネール  《盾》は解除しておくべきでしたね・・・。

GM  いまさら言っても、もう遅いがな。さ~て、では黒の月にギリギリまで接近したことで放てるようになった、威力増強版5条の光線、行ってみようか。

 

 月光蝶の掌より放たれた五条の光は、正確にリューリックの体を撃ち抜いた。

 

リューリック  死亡判定が三回・・・ダメだ、一回目で失敗した。

ルミノール  やばい・・・やばすぎます!

 

 なかなか倒せない砂人を無視し、ルミノールは月光蝶へと向かって走るも、すでに累積ダメージで生命力がマイナスに突入していたため、途中で気絶。ギルーファは<獣の悪魔>を振り切って月光蝶に挑もうとするが、黒の月を背にし固定砲台と化した月光蝶の光線がクリティカル。そして、クリティカル効果はまさかの1ゾロ。ダメージに関係なく気絶してしまった。

 

ギルーファ そこそこ長い事ガープスやってるが、クリティカル1ゾロは初めて経験したぞ…(気絶)

ディック  ・・・・・・全滅・・・・・・か・・・・・・。

一同  ・・・・・・。

 

エピローグ【世界は続く】

GM  どれくらい時が過ぎたのかは分からない。ディックとルミノールはまぶしい太陽の光に目を覚ます。

ディック  あれ? ここはどこや?

ルミノール  月にでも来たのですかね?

GM  死後の理想郷であるはずの月が山に囲まれた砂漠だったら嫌だと思うぞ(笑)。それに、青の月の信者であるドワーフと彷徨いの月の信者のミュルーンが、一緒の月にいるってのも変だ。

ディック  てことは、生きとるんかいな? 太陽の光っちゅうことは、大破壊は回避できたっちゅうことか?

メイア  ・・・その通りだ。姉上の命と引き換えにな・・・。

ディック  メイアはん。姉上の命って・・・ヒンメルはんは?

メイア  ・・・風となって、月光蝶に特攻を仕掛けた。・・・今ごろは月光蝶と共に黒の月だろう。

ルミノール  まさか、あのヒンメルさんが命と引き換えに世界を救うなんて・・・。

ディック  ヒンメルはんのこと、ただの自己中女かと思っとったが、ちょいとばかし、誤解しとったんかも知れんな・・・。

GM  メイアは後ろを向いて歩き出す。

ルミノール  どこへ行くつもりですか?

メイア  ・・・・・・どこへ行こうと、我の勝手だ。

ディック  人間、一人になりたい時もある。そっとしとこう。

GM  とか言っていると、地中から触手の生えた岩アーマーが現れる。

ディック  ギルーファはん。あんさんも無事やったか。

ギルーファ  わしはそれほどダメージは受けていない。当たり所が悪くなければまだ戦えた。

ディック  そや! リューリックはんたちは!?

GM  動かなくなったリューリックやリネール、デビルジェイルは、周囲に転がってる。

ギルーファ  月光蝶により命を落したものの魂は破壊され、蘇生が出来ないばかりか、半端な精神体の器として操られやすいと聞く。幸い黒の月の門は閉じたみたいだが、念のため火葬するのが一番だろうな。

GM  ちなみに、山の位置や神殿跡の場所から推測すると、黒の月の門があったはずの場所には何もない。

ルミノール  せめて、形見の品だけは持っていきましょう。

ディック  両手用ソードブレイカーとフェイントソードは無事かいな?

GM  両手用ソードブレイカーは無事。リュードくんも無事みたいで、泣いているような声が聞こえる。プレートアーマーに寄生していた鉄蝙蝠はどこかへ飛び去っていったみたいだ。月光蝶の群れによる攻撃でほとんどダメージ受けなかったし、リューリックの死体は綺麗なもんだ。リネールは結構ひどい。デビルジェイルなんかは、ジェイルだった面影もないね。

ディック  まあ、体はカインはんのもんやでな(笑)。リネールはんは、遺髪でももろうとくとするか。

ルミノール  簡易式ですが、葬儀儀式を済ませ火葬しましょう。

GM  OK。火はギルーファが魔法で起こせる。三人の死体が燃え、炎が天に登って行く様は、三人の体に魂が入っていないとは思えない光景だ。

ディック  ほな、帰ろうか。気は重いが、カーナー家やクリークスはんにも報告せなあかんしな。

ルミノール  そうですね・・・。

ギルーファ  わしはわしのいるべき場所に戻るとしよう。この次元は大破壊が起きなかったとしても、大破壊が起きた世界は別の次元に存在しているはずだからな。

ディック  難しいことはわからへんが、達者でな。

ギルーファ  人里までは送っていこう。そこでお別れだ。

ルミノール  じゃあ、送っていってもらいましょう。

GM  じゃあ、君たちはギルーファの触手にぶら下がり、南下する。半日かけて<王都>マルスより少し北、<温泉の町>ジェイガンで降ろされるね。

ギルーファ  では、達者で暮らせ。

ディック  あんさんもな。

ルミノール  向こうの世界で、平和な街を造って下さいよ。

GM  ギルーファは手・・・触手を振りながら地中に潜る。

ディック  ほな、ジョルジュに帰ろっか・・・。

ルミノール  そうですね。

GM  では、ジェイガンから乗り合い馬車を乗り継いで、約2巡り。君たちはジョルジュに戻ってくる。

ディック  カーナー家に行って、リューリックはんの死を伝えるで。

リアナ  あ~のバカが・・・な~にが「5日ほどで帰ってくる」よ。永遠に帰って来ないじゃないのよ、バカ。

GM  そういうリアナの瞳には光るものが溜まっている。ジークとエルはそんなことが理解できるはずもなく、ただ笑っている。カーナー家の家主さんは、号泣しながら夕日に向かって走っていった。

ルミノール  体育会系の人でしたからねぇ(苦笑)。

ディック  研究所の方にも、ヒンメルはんの死を知らせといた方がいいかもしれんのう。

ルミノール  メイアさんはそういうことしなさそうですからね。

GM  では、途中すっとばしてフォーシーズン研究所前だ。

ヒンメル  おや? 久しぶりじゃのう。

ルミノール  ・・・・・・え?

ディック  くぁwせdrftgyふじこlp;@:(驚きのあまり意味不明の言葉を口走ったらしい)!? ななななな・・・なんであんさんがここにおるんや!?

ヒンメル  なんじゃ? わらわがここにおったら悪いのか?

ルミノール  いや、そうではなく、あなたは月光蝶と共に黒の月の彼方に行ったのでは?

ヒンメル  ほほほ・・・わらわがそのような愚かな真似をするとでも思うておるのか。黒の月に飲み込まれる寸前に魔法で逃げたわ。

ディック  前言撤回。やっぱコイツは自己中女や・・・。

ヒンメル  しかし、奴があそこまで黒の月の門に接近しておらんかったらできん芸当じゃった。おぬしらには感謝せねばならぬのう。

GM  そんなことを話していると、研究所内部から、全身刺青でバンダナつけた怪しいエルファが。

リネール  マスター、どうしたのですか?

ルミノール  なにぃ!?

ディック  リネールはん! 何であんたも生きとるんや!?

リネール  その言い方では、私が生きていてはいけないみたいじゃないですか。

ディック  いやでも、ヒンメルはんが死ぬシーンは見とらんが、あんさんは火葬したはずやで?

ヒンメル  こやつはリネールの細胞から創ったクローンに、本人の記憶を植え付けた、いわばリネール02じゃ。リネール本人ではない。

リネール02  バンダナの下には、02の刻印があります(笑)。

GM  ちなみに、最終決戦前に取り出した記憶なんで、月光蝶との戦いがどうなったかリネール02は知らない。

リネール02  そこはそれ。某空さんが「ポチッとな」を覚えていたが如く、私も何故か最終決戦での記憶があるのです。

GM  それでもいいか(笑)。さて、とてもハッピーエンドとはいえないが、大破壊は回避。月光蝶も黒の月に送還された。しかし、そのような大きな戦いがあったことを知るものは少ない。今回の物語は、ここ紫の群島においても異伝としてのみしか伝わらないことになる。

ディック  ・・・決めた。リューリックはんたちと共に冒険した者の義務として、ワイは旅の語り部になる。知られざる英雄リューリック・カーナーの物語を後世に伝えるで。

ルミノール  それは私もお手伝いしましょう。

ディック  さて、まずはどこへ行こうかな・・・。

月光蝶編~完~

Next story 17 years after

*1:順に、敏捷力、体力、防護点が上がる魔法の薬。