黄金の羊亭新館

ガープスルナルのリプレイを公開しています

第10話【交易都市の事件録】

【再誕完了】

GM  さて、前回の戦いで傷ついた君たちは、<交易の門>アストリアの市営病院に入院している。

ディック  ワイなんか月面旅行しかけたでな(笑)。

GM  ちなみに、負傷も少なく定職があるダンテス先生は、一足先にジョルジュに戻った。君たちが硬いベッドで休んでいる最中、フォウシーズン研究所地下ではいま怪しい実験が行われている。所長が横たわった男性の頭に何かを刺し、全身に巻きつかれた魔力紐にパワーストーンのエネルギーを送る! BGMに「運命」でもかけたいような状況だ。

ディック  「新世界」でもええな(笑)。

GM  そしてただの演出だが、外は嵐。雷雲が漂い雷が空に響いている。

リューリック  でも、地下だから関係なし(笑)。

GM  全く持ってその通り。んで、途中すっ飛ばして、ジェイル、君は目が醒める。

ジェイル  (周りを見渡し)ここはどこだ?

所長  気がついたかジェイルくん。

ジェイル  あんたがいるってことは、ここは研究所の地下なのか?

所長  そうだ。体の調子はどうかね?

GM  君の体調はすこぶる悪い。眩暈はするし、体は重い。

ジェイル  最悪だな。

所長  やはりな。身体と記憶の相性はいいようだが、だからと言って、無意識下でかつて体を動かしていた部分が変わるわけではない。

ジェイル  ・・・どういうことだ?

所長  君は一度死んだ。何とか残っていた生前の記憶を、気絶していたカイン君に移し変えた。これを見てみろ。

GM  鏡を出される。確かにカインの姿が映ってるね。

ジェイル  フン! 面白いな。この男は<悪魔>信者だろう? 何か特殊能力はないのか?

リネール  おいおい(笑)。

所長  私が調べたところによると、一秒の集中を行うと狼男に変身ができる。鉤爪と牙が生え、筋肉の硬化と剛毛による防護点と受動防御がつく。ただし、体型がかなり大きくなるため、硬い鎧を装備していると変身できない。柔らかい鎧では、はじけ飛んでしまう。変身後に合わせた鎧を普段から着るには、サイズが違いすぎて動きを大きく阻害する。

ジェイル  普段はローブのようなものしか着られないというわけか。でなければ、変身をあきらめるか。

所長  ちなみに能力は全てカイン君のものだからな。

ジェイル  何? じゃあ、知力が下がるじゃねーか! 《凍傷》が集中無しで使えない。

所長  大丈夫だ。カイン君は最終的に第7師団と契約させられたようだからな。四大精霊系呪文の技能に+1のボーナスがつく。

ジェイル  おお! <悪魔>バンザイ(笑)。

一同  まてまてまてまて(笑)。

ジェイル  今のは冗談だ。

所長  まずはリハビリだな。今の君では歩くこともままならんだろう。それに、カイン君の記憶を押さえ込むために特殊調合した霊薬を週一回飲む必要がある。

ジェイル  飲まないとどうなる?

所長  分からん。だから飲みたくなければそれでもいい。こっちは実験データが欲しいのだからな。

ジェイル  俺は実験体かよ! こうなったら貴様の思い通りにはならんぞ。何が何でも俺として生きてやる。

所長  ちなみに一服50ムーナだ。

ジェイル  金取るのかよ!

GM  では、話を入院側に移そう。君たちの傷はかなり深く、最低でも2巡りは入院することを勧められる。

ディック  大事をとったほうがええでな。従うで。

GM  入院費は自腹だよ? しかも、前回の報酬は復活の霊薬分で飛んでる。それどころか、研究所からは報酬差し引いた分の請求が来てる。事件解決の功労者だし、貴重な品だけど原価で売るとして、<復活>の霊薬2本で・・・

ディック  待ったGM。アキはんに使ってやった分で、1本分にまからんのか?

GM  あ、そうか。だったら1本分の上に、ハル副所長は報酬にかなり色をつけるから・・10000ムーナ。入院費も合わせて、11000ムーナだな。

リネール  人助けはしておくものですね。それでも痛い出費ですが(笑)。

ディック  今のワイらなら、それくらい払えるでな。ここんとこの仕事の報酬でしばらく遊んで暮らせるだけの所持金はあったんやし、ここで使うのも悪くない。

リューリック  そういうことを言っていると、入院を長引かされますよ(笑)

リネール  ディックさんは武具の値段が安いですからね。私は上質の武器を買いましたから、あまりお金がありません。

リューリック  私もです。

GM  では、退屈な入院生活が始まって数日。君たちに、ある刺激的な出来事が起こるね。

ルミノール  刺激的なこと?

GM  ヒンメルが見舞いに来た。

リネール  刺激ありすぎじゃ! 帰れ!

ヒンメル  そうつれないことを言うな。一緒に死線をくぐった仲ではないか。

リネール  あんたが勝手に死線を作ったのでしょうが!

ルミノール  リネールさん落ち着いて。

ヒンメル  そうそう。短気は損気じゃ。リンゴでも食べて落ち着くが良い。

GM  ヒンメルはどこからともなくリンゴを出し、詠唱も行わず宙に浮かせ、ダンシングナイフが皮をむき始める。

ディック  で、あんさんがワイらに何の用や?

ヒンメル  おぬしらの容態が心配で見舞いに来た・・・ではダメか?

リネール  誰がそんなこと信じるか!

ディック  ワイもあんさんの冗談に付き合う気はないでな。早く用件を言うてくれなはれ。

ヒンメル  しょうがないのう。実は、おぬしらに少しばかり聞きたいことがあってな。

リューリック  なんです?

ヒンメル  「ザーザリオンの書」がどこにあるのか知りたくての。

ルミノール  それでしたら、所長が処分したと言っていましたよ。

ディック  もしあったとして、そんなもん手に入れてどうするつもりや?

ヒンメル  ほほほ・・・それは秘密じゃ。それに、もう処分されたのであるのなら使いたくても使えん。・・・本当に処分されていたのならばな(ニヤリ)。

リネール  あんた、何か知っているな?

ヒンメル  いや、可能性の問題でな。もしやお主らが持っているかもしれんと思ったのじゃが、違うのならば良い。邪魔したの。

ディック  おう。とっとと帰っとくれ。

ヒンメル  また、見舞いに来てやる。ありがたく思え。

一同  二度と来るな!

 

 その後食べたリンゴの味は、なぜか血の味がしたという。

 

GM  さて、ジェイルくん。君は2巡りにわたる地下研究所でのリハビリを終えて、娑婆に出てきた。

ジェイル  娑婆の空気は美味いぜ(笑)。ところで、アキとか言う小娘はいないのか?いたら殺してやるところだが・・・。

GM  何故?

ジェイル  あいつが死ななければ、復活の霊薬がもう一本あって俺も蘇られただろうからな。

 

 人、それを逆恨みと言う。

 

ジェイル  いないのならばしょうがない。あいつ等でも探してみるか。副所長に聞けば何か分かるかな?

ハル  あら? カインさん。今までどちらにいらしたのです?

ジェイル  ん? ああ、俺の体の名前ね。いや、ちょっと所長の研究の手伝いをな。それより、こないだあんたが雇った冒険者の行き先を知らないか?

ハル  彼らでしたら、アストリアの病院で療養中ですよ。

ジェイル  じゃあ、行ってみるか。

GM  研究所から徒歩で4刻(約6時間)。君は<交易の門>アストリアに着いた。大きな港町だけあって、かなり栄えているみたいだね。遠くに海と船が見える。この街は二十年程前、街の中心で魔法装置を暴走させた馬鹿がいて、それで南北に両断され、その間に海水が入り、南北に分かれた街になった。ちなみに、南はかなり治安が悪い。

ルミノール  ロマサガに似たような街がありましたね。

GM  てか、それがモデルだ。もっとも、南北に分かれたのは、昔やったキャンペーンでPCがミスした結果なんだが(笑)。

ジェイル  じゃあ、市営のサリカ病院とやらに行ってみよう。

GM  かつての君だったら間違いなく怪しまれたり守衛を呼ばれたりしただろうが、今はちょっと厳つい顔なだけの中年だ。病室に通してもらえるね。

ジェイル  フン。便利なものだ。よう貴様ら。元気にしているか?

リネール  何しに来たのですか、この<悪魔>が。

一同  (笑)

リューリック  自分でその体を選んでおいて、なんつー言い草だ(笑)。

ルミノール  だいたい、彼は命の恩人ではなかったのですか?

リネール  そうなんですけどね。中身がジェイルじゃ感謝する気にもなれない(笑)

ジェイル  ・・・まあいい。

ディック  皆集まったんならちょうどええで。これからどうするか考えな。

リューリック  しばらくこの街に滞在してはどうです? たまには違う環境で生活してみるのもいいでしょう。

ルミノール  結婚生活から離れられますからね(笑)

リューリック  そういうことじゃない! 子どもが生まれる前には帰りますよ。あ、家には手紙を送っておきます。

ディック  ワイはその意見に賛成やな。この街でリューリックはんを英雄に仕立て上げるのも良いかもしれん(ニヤリ)。

リネール  私はもともと根無し草ですから。

ジェイル  俺もだ。

ルミノール  私も、しばらくこの地で修業しますか。

ディック  入院しとる間に、この街の噂とか、最近起きている事件とか聞いとくで。

GM  じゃあ、最近北アストリアでは、場所や時間、階層や種族を問わず、行方不明者が多発しているとのことだ。

ルミノール  厄介な事件がおきているようですね。

GM  そして、突然ふらりと戻ってきたと思ったら、理由もわからず人を襲い始め、その後自殺する。中には怪物に変身して暴れまわる奴もいるそうだ。

ディック  ここでも、狂信者のテロリストかいな。

リネール  行方不明の間に洗脳されたのですかね。

GM  ガヤン当局はそうだと見ているらしい。<悪魔>教団の仕業ではないかという噂も流れている。

ディック  物騒じゃのう。

看護士  そうなんです。しかもつい先日、南アストリアでもサリカ学校の送迎馬車が馬車ごと行方不明になったそうで。

リューリック  その子ども達は戦闘員になって帰ってくるに違いない(笑)。

ジェイル  何年先の話だよ(笑)。

ディック  退院までに解決しとらんかったら、調べてみるべきかもしれんのう。

GM  安心しろ。後二日で退院だ。それまでに解決されることは決してないから(笑)。

 

【交易の港にて】

GM  二日後、君たちは無事退院できた。予告通り、行方不明事件の捜査は遅々として進んでいないみたいだ(笑)

ディック  まずは、活動の拠点となる酒場でも探すで。

GM  港町だけあって酒場は多い。酒場兼宿屋ってのもあるし、トラブルを飯の種にしている連中が多く集まるところもあるね。

リューリック  まずはどこに入っても良いんじゃないですか?

ディック  そうやな。判断材料もないことやし。

GM  んじゃ、『BARテキト』ってことで(笑) 中にはならず者風の男が二人、カウンターに座っている。マスターはパリッとした服装で初老の男だ。

リネール  大テーブルにでも座ろっか。マスター、ビール5杯頼むで。

マスター  分かりました。

ディック  まあ、今日は退院祝いっちゅうことで・・・

GM  そのとき、麦藁帽子を被った7、8歳の少女がBARに入ってくる。

ジェイル  ・・・怪しすぎる。

リューリック  警戒しておきましょう。

GM  少女は真っ直ぐカウンターへ向かい、光る何かをマスターに投げてよこす。そして一言・・・

麦藁帽子の少女  オレンジジュース。

一同  (爆笑)

GM  すると、カウンターにいた男二人が、突如苦しみだす! 汚物のようなものを吐き出したかと思うと、体が肥大化し始め妙な突起物が皮膚を突き破って現れる。数秒後には蟹の装甲が全身を覆い、腕が巨大な鋏に変異した異形の姿をとる!

リネール  <獣の悪魔>か!

GM  マスターは突然のことに腰を抜かすが、少女は微動だにしない。

リューリック  席を立ち、マスターの元へ向かいます!

ルミノール  同じく。

GM  おっと、それは蟹怪人一号がカバーだ。

ディック  ここはワイに任せて、リューリックはんは早くマスターを!

リューリック  分かりました。

 

 ディックとルミノールは蟹怪人一号相手に痛手を負わせる。蟹怪人の反撃はルミノールの盾に防がれるが、かなり重い鋏パンチであることをPC達は思い知る。普段はニヒルなくせに、相手が<悪魔>となるととたんに激情するリネールも、フェイントソードで蟹怪人一号を攻撃。しかし、硬い装甲の前に大したダメージは与えられない。リューリックはマスターを庇うために走るも、重い鎧が仇となり間に合わない。蟹怪人二号の鋏パンチがマスターを殴りつける!

 

GM  (ダメージダイスを振って)肋骨が折れただろうが、命に別状はなさそうだ。

リューリック  これ以上はやらせん!

ディック  少女の様子はどうでっか?

麦藁帽子の少女  オレンジジュースまだー?

リネール  こいつが元凶かと思いましたが、違うのですかね?

ジェイル  いや、すごく怪しいだろう。

 

 ジェイルは<悪魔>の力を借りて放った《凍傷》で、蟹怪人一号を黒の月へ送還することに成功する。要するに倒した。一号が倒れたため、攻撃を二号に集中させる一行。一方、リューリックはこいつらを操っているように見える少女に向かって攻撃を行う。

 

GM  (ころころ)よけ損ねたね。ダメージも大きいから(ころころ)死んだ。

リネール  《瞬間回避》も使わない? ひょっとして、操られているだけの無関係な奴だったとか?

GM  そんなことを言っているリネールくん(メモを渡す)

リネール  (ころころ)失敗しましたが?

GM  じゃあ(もう一枚メモを渡す)。

リネール  (ころころ)分かりました。

ディック  嫌な予感がするのう(苦笑)。

 

 そして、少女の死亡とほぼ同時に、蟹怪人二号も倒された。

 

ルミノール  女の子のことも気になりますが、まずはマスターの手当てをしましょう。

リネール  ルミノールさん、鎧を着ていたら手当てし辛いでしょう。

ルミノール  それもそうですね。急いで鎧を脱いで・・・

リネール  その隙に後ろから切りつけます!

ルミノール  何!?

リューリック  何をするんだリネール!

リネール  すいませんが、あなたたちを切らなくちゃいけないんですよ。

ディック  操られたか? しかし、いつの間に?

リューリック  まずは気絶させる!

 

 リューリックの峰打ち攻撃で、リネールはあっさり気絶する。

 

ディック  ジェイルはん、三人の手当てを・・・

GM  その時、突如声が響く。

少女の声  アハハハハ。何の関係もない少女を斬り殺すなんて、酷いことのできる人間もいたもんだ。

ディック  誰や!?

リューリック  関係ない!?

少女の声  うん。たまたま外を歩いていたから、ちょちょっと魔法で操ってね。<悪魔>は、もともとここに仕込んでいたんだよ。

リューリック  わ・・・私はなんてことを・・・

ディック  落ち着けリューリックはん。そうせんと<悪魔>に取り込まれるで。相手の居場所は分かりまっか?

GM  聴覚にペナルティ入れて判定ね。

ディック  (ころころ)成功! そこや!(槍を突き出す)

GM  (ころころ)君の攻撃は空を切った。しかし、次の瞬間猫の鳴き声が天井から聞こえる。

ジェイル  猫だと?

リューリック  天井を見ます。

GM  天井の隅に、一匹の黒猫が張り付いている。その黒猫は変異し、猫の耳と尻尾が生えた10歳弱の少女に変身する。

ディック  デジ・・・

GM  違う! 耳と尻尾は黒猫のものだ。髪も黒い。可愛いが、その顔にたたえている笑みは邪悪そのもの。

ジェイル  貴様、あの遺跡のときの!

黒猫少女  ・・・あんた、ダレ? たしかに、そこのドワーフと少女殺しの張本人には以前遺跡で会ったけど?

ジェイル  ああ、そうか。今は顔が違う(苦笑)。

リューリック  この少女が関係ないというのは本当なのか?

猫耳少女  嘘だと思うなら、身元確認に入ってみれば?

GM  住所を教えてもらえるね。

黒猫少女  ああ、アタシってなんて優しいんだろう。いつもは嘘ばかりついてるけど、こういう重要な情報は真実を包み隠さず話すなんて・・・

ジェイル  黙れ! 《凍傷》を使う!

GM  (ころころ)ふむ。すると《凍傷》は、魔力の方向を捻じ曲げられ、君自身に向かってくる。ダメージは自分で決めてくれ。

ジェイル  何っ! (ころころ)抵抗失敗。ダメージは大きいが、新しい体はタフで我慢強いから大丈夫だ。

ディック  《呪文反射》か。厄介なもんを。この分やと《矢返し》くらいもかけてそうやな。

黒猫少女  せ・い・か・い♪ ご褒美にアタシの名前教えてあげるね。アタシの名前は<猫耳>のフィー。以後、よ・ろ・し・く・ね♪(ウィンク)

GM  フィーと名乗った少女は、《瞬間移動》で逃げる。

ジェイル  集中や詠唱は?

GM  なかったね。

ジェイル  とんでもない魔法使いだな。

ディック  そんなことよりジェイルはん。三人の手当てを頼むで。

ジェイル  おお、そうだったな。

リューリック  ・・・・・・。

 

 ディックは事件の報告をしに、失意のリューリックと手当中のジェイルを置いてガヤン神殿に向かった。

 

GM  ガヤンの人はすぐに来てくれる。30代だろうが、もっと若いといわれても納得のいく金髪碧眼の神官戦士が率いているね。彼らの話によると、同じような事件がここ十数巡りの間に何度か起きているらしい。

ディック  やっぱり、テロか。さっきのフィーとかいう奴を見る限り、愉快犯みたいやな。

ガヤン神官  フィー? フィーってひょっとして、黒い猫みたいな耳と尻尾の生えた、10歳くらいの女の子の?

ジェイル  知り合いか?

ガヤン神官  まさか、あいつが蘇ったのか?

ディック  蘇ったってのは、穏やかやないの。詳しく話してくれへんか?

 

 ガヤン神官の名はラディウス・フレイマー。<アストリア魔界化事件>・・・十五年前にアストリアに黒の月の門が開かれようとしたときに、<悪魔>の群れを相手に戦った勇者の一人であった。

 ラディの話によると、フィーとはかつてこの事件を引き起こした張本人であるという。その事件以前にも、面白半分に様々な事件を起こし、街を恐怖に陥れていた邪術師。しかし、魔界化事件終結の時、五人の冒険者が持ち込んだ壷によって、厳重に封印されたはずだという。

 

ジェイル  それが復活した・・・と。

ディック  その、五人の冒険者言うのは、今どこに?

ラディ  今でもこの街にいるのは、<軽拳殺>のラグズさんだけですね。

GM  ちなみに、二つ名の由来は事件の犯人と格闘した際、軽拳(ジャブ)で相手を殺してしまったことから(笑)。

ディック  そのラグズはんからも、話を聞いてみるか。

リューリック  それで、今回の事件のことなんですが・・・

ラディ  ああ、分かっている。この少女は邪術師の<悪魔>を使ったテロに巻き込まれ、死んでしまった。

リューリック  いえ、そうではなく・・・

ラディ  刀傷を見れば誰が殺したのかは分かる。そいつを罰することも簡単だろう。だが、そいつを罰したところでこの事件の根本解決にはならない。本当に悪いと思っているのならば、そいつは自分を責めるよりやることがあるはずだ。

リューリック  ・・・確かに・・・そうですよね。事件解決に協力させてください!

ラディ  もちろんだ。だが、君たちにはガヤン神殿としてでなく、冒険者として事件解決に当たってもらいたい。

ディック  ガヤンの後ろ盾が着いたな。リューリックはんがこの街でも有名になる日は近いで。

ジェイル  少女殺しの真犯人としてな。

リューリック  頼むからやめてくれ。本気でへこむ。

 

【邪術師を探して】

 一行は目を覚ましたルミノール、正気を取り戻したリネールにも事情を説明し、今後の行動方針を固めるため適当に選んだ酒場兼宿屋で会議を行う。

 

リネール  しかし、いくら強力な邪術師でも個人にしては行動範囲の規模も行動内容も大きすぎますよね。おそらく教団規模で動いていると考えられますね。

ディック  それは間違いないやろうな。

 

 一行は、フィーと接触したことにより自分達に目がつけられている可能性を考え、効率が悪くなることを覚悟の上でパーティ分断を行わず情報収集をすることに。

 

ディック  まずはガヤン神殿やな。ラグズはんがおると良いけど。

リューリック  受付に聞いてみましょう。すいません、ラグズという方はいらっしゃいますか?

受付  そこで、酒飲んで眠っている奴がそうです。

GM  確かに、ドワーフにしては異常に背の高い男が、酒ビン持ってソファで寝てるね。よく見るとかわいい顔だ。

ディック  ボブ・サップか?(笑)。

ディック  ラグズはん、聞きたいことがあるんやけど、起きてくれまへんか?

ラグズ  ぐおぉぉぉぉぉ・・・すぴぃぃぃぃぃ・・・

ルミノール  ・・・あ、こんなところに高級なお酒が。

ラグズ  なにぃ! 私にも飲ませろ!

リネール  ルミノールさん、ナイス。(親指を立てる)

ディック  あんさんがラグズはんやな? 邪術師のフィーって奴のことを聞きたいんやが。

ラグズ  フィー? あいつなら何年も前にやっつけたぞ。何でそんな奴のことを聞くんだ?

リネール  そいつが復活したのですよ。なにか、対策とか分かりませんか?

ラグズ  そうは言っても、私は拳を振るっていただけだからなぁ。細かい作戦なんかは、ウィズの奴が立ててくれていたから。

ディック  こら、大した情報は期待できんな(苦笑)

ラグズ  確か、本を集めるのが好きな奴だった気が・・・ そうだ、ルシーナって人が狙われたことがあったな。その人に何か聞いたらどうだ? 俺よりよほど頭も良いし。

ルミノール  住所は?

ラグズ  私は地名とか分からんから、他の奴に聞いてくれ。有名な家だから、すぐに分かると思うぜ。じゃあおやすみ。

ディック  自分の分をわきまえとるお方やのう(笑)。

 

 一行は他のガヤン信者からルシーナという人の家の場所を聞きだし、そこへ向かう。

 

GM  大邸宅とまではいかんが、結構大きな家だね。表札にはフレイマー家と、書かれている。

ジェイル  どこかで聞いた気がするな。

 

 さっき出会った、ガヤン神官ラディウスの苗字ですが、誰も覚えていないようです。

 

リネール  ノックしてみましょう。

GM  すると、返事が返ってきてパタパタと走る音が聞こえてくる。ドアを開けたのはエプロンを着た30代の女性だ。水仕事でもしていたのか、ハンカチで手を拭いている。しわはあるけど、結構美人。

ディック  ルシーナはんでっか? ワイらちょっと聞きたいことがあって着たんやけんど・・・

エプロンの女性  奥様でしたら、今は南のサリカ学校にいらっしゃいますよ。そこで教師をしていらっしゃいます。

 

  女性はシーラ・アシュレイと名乗る。もう十六年フレイマー家のお手伝いとして働いているそうだ。実は十六年前にザーザリオンが起こした拉致監禁殺害事件の被害者になりかけた人だが、今回はそんなことは関係なし。

 一行はシーラからもフィーのことを聞き出そうとするが、人質として一度誘拐されただけで、しかも誘拐されていた間はずっと気を失っていたので何も知らなかった。仕方なく一行は南アストリアへ向かう。

 

GM  南アストリアへはボートに乗っていく。船賃は一人5ムーナね。

リューリック  半分に値切ったりすると、川の途中で降ろさせられたりするわけですね(笑)。

ディック  古典的なネタやな(笑)。

GM  一応、市で決まっている値段だからまからんよ。

ルミノール  そういえば、南のサリカ学校って、馬車ごと拉致された事件があったところではありませんかね?

ディック  おお、そうやな。そっちの情報も集めなならんで、ちょうど良かった。

GM  じゃあ、南アストリアサリカ学校だ。南側は治安が悪いので、まともな教育が受けられない人もたまにいる。そんな子達を預かる修道院も兼ねているね。

ディック  ええ話や。職員室入って1000ムーナほど寄付するで。

先生  こんな大金を・・・ありがとうございます。

ディック  ええってええって。それより、ウチらルシーナ先生に用があるんやが。

ルシーナ  私にぃ、何かぁ、ご用ですかぁ。

GM  ボーっとしているというか、おっとりとしているというか、そんな雰囲気の女性が出てくる。30後半のはずだけど、かなり若く見える美人さん。ちなみに髪は黒のロング。

リネール  ルシーナはん、ちょいと16年前のことで聞きたいことがあるんやが、よろしいか?

ルシーナ  かまいませんよぉ。でもぉ、ここではぁ、なんですのでぇ、お外に行きましょうねぇ。

リネール  私らを子ども扱いしているのじゃなく、普段からこんな感じの人なのでしょうね(笑)

リューリック  子ども達にいじめられてなければいいのですがね(笑)。

先生 ルシーナ先生はこう見えて怒ると怖いのですよ。雷も落せますし。

ディック  ミュルーンかいな。

GM  いや、《電撃》の呪文が使えるてこと。

リネール  そんなことよりルシーナさん、フィーという邪術師について話してもらいたいのですが。

ルシーナ  フィーさん、ですか~? あの、可愛らしい~、邪術師さんの~、ことですね~。

リネール  確かに、外見は可愛かったかもしれませんがね(苦笑)。

ルシーナ  むか~しぃ、ティリンがぁ、いなくなる前にぃ、石にされてぇ、誘拐されたことがぁ、ありますぅ。

ルミノール  ティリンさんとは?

ルシーナ  双子のぉ、妹ですぅ。冒険者でしたけどぉ、行方不明になっちゃいましたぁ。

ルミノール  これは・・・失礼しました。

ルシーナ  大丈夫ですぅ。ティリンはぁ、きっとどこかでぇ、生きていますぅ。それでぇ、その時にぃ、鍵をわたせとぉ、言われましたぁ。

リューリック  鍵ですか?

ルシーナ  はぁい。家のぉ、宝物庫のぉ、鍵ですぅ。後でぇ、調べてみるとぉ、お本がぁ、なくなっていましたぁ。

ジェイル  本?

ルシーナ  槍にぃ、龍が巻きついたぁ、表紙の本ですぅ。

リューリック  どっかで見たことがあるような(苦笑)

ルミノール  私らの見つけたのは、盾でしたがね。

ルシーナ  本にはぁ、<悪魔>がぁ、封印されていたぁ、ようですぅ。

ディック  龍は封印を表す絵みたいやな。

リネール  そういえば、ザーザリオンの書というのもありましたね。それもその<悪魔>封印の本の類でしょうね。

ディック  それは調べてみな分からんな。そや、乗り合い馬車ごと誘拐された子どもんらのことは何か知らへんか?

ルシーナ  エース君とぉ、ビーン君とぉ、ディーンちゃんですぅ。まだぁ、見つかっていないのでぇ、心配ですぅ。

リネール  そういえば、南で起こった誘拐事件はこれだけなのですよね?

GM  確かに、そうだね。

リネール  この誘拐に限っては、他の誘拐事件とは違う気がします。本格的に調査しましょう。

ディック  同感やな。場所だけやなく、馬車ごとってのも気になる。ひょっとすると、「大統領夫人を暗殺するさい、大統領ごと爆殺して捜査の目を撹乱させる」つもりかもしれん。

GM  (お? いい線行ってる。例え方はえぐいけど(笑)。)

リューリック  じゃあ、二手に分かれません? ここまで襲撃がなかったのですから、戦力バランスさえ整っていれば大丈夫だと思うのですが。

ディック  しゃあないな。時間も惜しい。

GM  冷静に考えたら、もう夜だな。午前中に退院して、一日中走り回っていたわけだから。

ルミノール  今日はこの辺で宿を取りましょう。

 

 一行は休息を取り、翌日早朝から捜査を開始する。リューリックはジェイルとともにエースとビーンの家に、他の面子はディーンと御者の家に向かう。

 エースとビーンの家は、見事に空振り。子ども達の両親からガヤン神殿に対する愚痴と、ガヤンであるリューリックが罵倒を浴びるに終わる。しかし、ディックたちが向かったディーンの家には両親はおらず、たまった郵便物の中に脅迫状のようなものを発見した。

ディック  「娘を返して欲しくば、今夜紫の刻に、郊外の共同墓地に鎧に龍が巻きついた表紙の本を持って来い。ガヤンに喋った場合、娘の命はないと思え」か。

 

リネール  ありがちですねぇ。

GM  んで、二枚目には「何故先日は約束の場所にこなかったのだ? 娘の命が惜しくはないのか? 今夜こそは紫の刻に郊外の共同墓地に鎧に龍が巻きついた表紙の本を持って来い。」んで、三枚目には、さらに差出人の怒りが大きくなっているバージョンが(笑) 届けられたのは昨日で、次の期日は三日後になっている。

ディック  で、受取人はずっと留守やと(笑)。

リネール  ・・・ひょっとして、敵は馬鹿?

ディック  やとすると子どもの命が余計に危ないで(苦笑)。

ルミノール  道行く人に、この家の主がどこにいるか聞いてみましょう。

通行人A  ああ、そこの家の人でしたら、フォウシーズン研究所に務めていて、先日あっちで事件があったらしく研究所に缶詰状態らしいですよ。

ディック  一度研究所へ戻る必要があるな。三日か・・・ギリギリやのう。

 

 一行は一度合流し、作戦を練る。リューリックとジェイルは本の確保のため馬を借り研究所へ向かう。ディック、ルミノール、リネールは敵が本物の本を知らない可能性があると考え、ペローマ神殿とシャストア神殿に本の偽者の作成を依頼する。当然PCたちも実物を見たことはないのだが、その辺は想像に任せて作成することに。

 

GM  馬に乗って急げば、当日の夕飯時にはフォウシーズン研究所に着くね。

リューリック  共同食堂があればそこへ行ってみよう。

GM  前回は棟が違ったから出番のなかったが、共同食堂ならあるね。レストランみたいな感じで、なかなかにお洒落な場所だ。ただ、前回の事件で研究員が半減したんで空席は多い。

ジェイル  所員じゃなくても食べられるのか?

GM  うん。今日のディナーセットはシーフードフライにサラダとスープ、パンがついて3ムーナだ。

リューリック  安いなあ。

GM  この世界、生活必需品は安いよ。ところで、皆が談笑しながら食事をしている中、ヒンメル先生がスペシャルディナーセットを食しておられますが。

リューリック  さて、さっさと用件を済まして行くか(笑)。

ジェイル  ・・・お前はそうしてくれ。俺はヒンメルから情報を聞き出してみる。多分怒らせるようなことでもしない限りは大丈夫だろう。

リューリック  まあ、頑張れ。骨くらいは拾ってやる。

GM  月光蝶をまともに浴びると、骨も残らん可能性があるがな(笑)。ジェイルが近づいていくと、ヒンメルの方から声をかけるね。

ヒンメル  おお、お主は確かジェイルとかいったな。新しい体のほうはどうじゃ?

ジェイル  なかなか良い。特に以前よりタフになったのはありがたいな(笑)。しかし、なんでこいつが、俺の体のことを知ってるんだ?

ヒンメル  その技術は、わらわが所長に教えたものじゃからのう。教えた当時は、まだ未完成じゃったがな。それより、わらわに何か聞きたいことでもあるのではないか?

ジェイル  <猫耳>のフィーのことについて聞きたくてな。

ヒンメル  ほう? 何故そんな奴のことを?

ジェイル  蘇ったらしい・・・

GM  するとヒンメルの形相が鬼のようになり、君の首を絞める。力は強くないが、喉に焼けるような痛みが走る。気迫も恐ろしい。

ヒンメル  どこでじゃ!? どこで蘇ったのじゃ!? 奴は今どこにおる!? 言わぬと容赦はせぬぞ!

ジェイル  き・・・北アストリアで見た。どこを根城にしているかは知らん!

ヒンメル  北アストリアじゃな。

GM  ヒンメルは君を放すと《瞬間移動》で消える。

ジェイル  た・・・助かった・・・

GM  食堂は一時騒然とするね。「ヒンメル先生のあんな怒った顔は始めてみた」とか、「カインの奴、先生に何を言ったんだ」とか聞こえる。

ジェイル  そんな有象無象など、どうでも良い。リューリックと合流だ。

リューリック  合流も何も一部始終見ていましたよ。何が怒らせなければ大丈夫ですか。見事に怒らせていましたよ。

ジェイル  まさか、あれだけで激昂するとは思わなかったからな。フィーとヒンメルにどんな因縁があるんだか。

 

 その後二人は、ディーンの両親を発見。事情を話し本を譲り受ける。彼らは、本に封じられた<悪魔>を研究していたのではなく、封印の機能そのものについて調べていた学者だったようである。

 

ディーンの父  では、どうか娘を助けてください。年を取ってからようやくできた、たった一人の娘なのです!

リューリック  前向きに善処します。

ジェイル  お前は政治家か(笑)。

リューリック  少女を斬り殺したことで、精神状態がネガティブになっていますから・・・。

 

 二人は研究所に泊まり、明日の朝アストリアへ戻ることにする。翌日、アストリアにて合流する一行。ジェイルは残存組が入手した本の偽物に《追跡》をかけ、敵に本を渡した後に本拠地を探知できるようにする。また、ジェイルの魔法は黒の月の波動を放つため、この《追跡》は敵が邪術師だった場合に簡単な魔法で本を調べられても、偽者だとすぐに分からないようにする効果もある。高度な魔法で調べられると本が偽者だとすぐにばれてしまうが、その場合は呪文完了前に奇襲をかけるという作戦を立てる。

 その後、人質と本の交換場所となっている墓地の下見に行くも、特に怪しい気配はなし。ガヤン神殿に報告して応援を呼んではどうかという意見がリューリックより出されるも、大人数で動くと敵に作戦を察知されやすいという理由から却下される。

 そして、翌日。約束の紫の刻が訪れようとしていた・・・

 

GM  今夜空に輝いている月は4っつ。心なしか、黒の月が大きく見える。月の光に反射された墓石は・・・

ディック  雰囲気盛り上げるんはいいとして、相手さんはおるんか?

GM  うむ。約束した場所には、筋肉質で肌の黒い女と、身長2メルーを越える肉の塊のようなデブ、それに角と鉤爪の生えたゴブリン。後は鎖帷子と円形の盾、剣で武装した男が二人、目隠しされた小さな女の子を連れているね。

リネール  ゴブリン!? (ころころ)今は、子どものためにも耐えよう。だが、後で殺ス!

筋肉質の女  ようやく来たようだな。だが、この少女の親ではないようだが?

ディック  あの二人は心労で倒れてな。本を探すのに苦労したで。

肉の塊  フォフォフォ。ぬぁるふぉどぬぁ。ふぉんはつねに持っているわけではぬぁかったようじゃぬぁ。

ゴブリン  まあよい。誰が持ってこようと、わしらは本を回収すればよいまでよ。

筋肉質の女  この男二人が、十歩前に少女を連れて行く。貴様らは誰か一人に本を持たせ十歩進み、地面に本を置き、五歩下がれ。男たちが少女を放し、そのまま本を回収に向かう。

リネール  いいだろう。じゃあリューリック。本を持っていく役目は任せた(笑)。

リューリック  まあ、いいでしょう。言われた通りに動きましょう。

ジェイル  相手に怪しい動きはないのか?

GM  今のところは特にない。

リネール  今のところ・・・ねぇ。

 

 一行の予想を裏切り、本の偽物と人質の交換は無事終了した。怪しいと思ったジェイルは少女に《霊気感知》をかけるが、本物のようだ。敵も、《魔法感知》を本にかけるが、この呪文ではジェイルの《追跡》と本物の<悪魔>の書とは区別がつかない。敵は納得したのか、呪文を使い退散しようとする。

 

リューリック  待て! さらった他の子達も返せ!

ゴブリン  何を馬鹿なことを。本と交換するのは、この少女一人だけだったはずだ。だが安心せい。他の童どもは、戦闘員として洗脳し、我が組織の役に立ててやる。

ディック  それまでに、お前らの組織はなくなっとると思うがの(笑)

肉の塊  フォフォフォ・・・われらが主がいるくぁぎり、われらの組織は不滅よ。

GM  止める気がないのならば、連中は去っていくけど?

リネール  本を持って帰ったのならば好都合だ。後で一網打尽にしてやる。

リューリック  おまえ、ほんとに<悪魔>関係になると性格変わるよな(笑)。

ディック  口先ばかりな本質は変わってないけどな(笑)。

ジェイル  じゃあ、俺の《追跡》で本の場所を調べるか。

GM  《瞬間移動》で帰ったからな。すでにアジトには着いているか。場所は、北アストリアの地下だ。

リネール  では、一旦街に戻りましょう。

GM  じゃ、君たちがアストリアへ帰ろうとすると、町の北側にある高級住宅街あたりに、青いドームが出来ている。

ディック  ・・・・・・まさか。

GM  間違いない。月光蝶だ。

 

【邪術師たちの最期】

リネール  また無差別殺人か! ヒンメル!

GM  残念ながら、君の叫びはヒンメルには届かない。

ディック  急いで街に戻るで。街の人にドームに近づかんよう知らせな。

GM  極彩色の地獄の蝶は、静かに飛び回っている。しかし、その中から高速で飛び出す謎の物体が!

ルミノール  今度はなんですか!?

GM  全長10メルーはあろうかと思われる、巨大な円盤型の盾だ。亀の甲羅にも見えるが。

ジェイル  ひょっとして、俺らが遺跡で見つけた本に封印されていた<悪魔>か?

GM  その可能性はあるが、確証はない。よく目を凝らすと、盾には所々ひびが入っており、その上に<猫耳>のフィーが立っているのが分かる。その盾が一瞬光ったかと思うと、360度全方位に光線を放つ!下方向に向けられたのはドームの中に消えるけど、関係ない方向に放たれた光は、街を破壊しているね。

ディック  (ポンと羽を叩いて)月光蝶はあの盾とフィーを倒そうとしていて街の北側を覆って、盾は月光蝶を倒すため、やたらめったらに光線を撃っとるわけや。

リューリック  なんてはた迷惑な・・・。

ルミノール  頼みますから、よそでやってくださいよ~。

GM  そんな言葉に耳を傾けるようなフィーやヒンメルじゃない。そもそも、相手には聞こえないだろう。フィーとしては、いざとなったら街全体を人質にしようとしていたんだけど、ヒンメルは街ごとフィーを倒そうとしているみたいだね(笑)。

リューリック  ジェイル。お前が余計なことを言わなければ。

ジェイル  俺に責任がないとは言わんがな、こんな結果になるなんて、誰が想像できる?

ディック  過ぎてもうたことはしゃあないで。今は少しでも多くの人を救うんや!

GM  あ、偶然にも光線が直撃する可能性があるからサイコロ振ってね。3個振って、17か18なら大命中。

 

 幸いにも、光線に直撃したものはいなかったが、盾は下手な鉄砲理論の下光線を連射する。一行は街の人々をドームから離れていて、かつ建物が光線を防いでくれる場所へ誘導する。その時、青い蝶のドームの中から、同色の羽を生やした女性が現れる。

 

ルミノール  おお、ガメラvsモスラ! 夢の対決です(笑)。

GM  盾はヒンメルに向かって大口径の光線を放つ。その光にヒンメルが飲まれたかと思うと、次の瞬間現れるのは、蝶の羽で自分を覆って防御壁にしたヒンメルの姿だ。ヒンメルは蝶の羽を広げ盾に突進する。盾は高速で逃げようとするが、逃げる先には《瞬間移動》で先回りしたヒンメルがいる。急激に角度を変えることは出来ないようで、盾はヒンメルの羽に向かって突っ込んでいってしまう。全てを分解する蝶の羽は、巨大な盾をも飲み込み壊す。だが、盾の背に乗っていたフィーはなんとか《瞬間移動》で脱出した・・・かと思いきや、ほんのわずか離れた上空に出現。落下するね。

リネール  事前に《瞬間移動阻止》を張っていたのですかね?

GM  それは君たちには分からんね。ヒンメルはその落ちて行くフィーを狙って急降下。月光蝶の羽でフィーに触れる。その瞬間、君たちは確かに声を聞いた。

フィーの声  アハハハハ! 短い間だったけど、復活できて楽しかったよ。まあ、後500年もしたら、また復活できるだろうから、そのときまで生きていたら、また遊ぼーね! アハハハハ!

GM  恐らく、フィーは消滅した。

一同  ・・・・・・。

 

 一行は、墓場で会った連中の首領と思われるフィーの死から組織が立ち直る前にアジトに奇襲をかけるため、ガヤン神殿に向かう。戦力の増強と、地下とは何のことかを知ることが目的だ。

 ガヤン信者の話によると、この街には迷宮化した下水道があり、闇タマットや<悪魔>教団の隠れ家なども存在しているという。しかも、下水の出入り口は市が確認できているのは一部だけで、出入り口の封鎖は不可能だとも告げられる。

 

ディック  あの怪しい連中の隠れ家にはもってこいやな。

ジェイル  地図はなくても、俺の《追跡》ならば道案内もできる。

リネール  敵が逃げるとしたら、最短距離にある地上の建物でしょうね。あいつらが《瞬間移動》を使ったのは確認しています。

ガヤン  なるほど。下水の出入り口を固めるのは無理でしょうが、隠れ家の上の建物を警戒するくらいはできるでしょう。

 

 一行は、少人数で夜明け前に敵アジトに奇襲をかけることにする。ガヤンからはラディ神官が下水組みに回り、他集められるだけの面子を、隠れ家上の建物(今は使われていない倉庫だった)に終結させる。

 

GM  では、《追跡》を頼りに下水を進むと、壁の一点に反応がある。

ディック  隠し扉か、そのスイッチがあるはずや。探してみるで。

GM  一番「探索」の成功度が高いのはルミノール? じゃあ、ルミノールが壁に妙なスイッチを発見する。

リューリック  戦闘態勢を整えてから押しましょう。リュードくん、ファイア!

ジェイル  《倍速》をリューリックに。

リネール  《盾》を私とリューリックにかけましょう。

ディック  ほな、ポチッとな(笑)。

GM  すると、目の前の壁が徐々にスライドしていく。内側からは魔法の光が漏れ、室内には10人の影が見えるが、人一人が中に入るまで壁が動くには、3秒ほどかかりそう。

リューリック  うぉぉ! イライラする!

GM  その隙に、中の相手は臨戦体制を取っている。

ディック  なるほど。相手は邪術師や。3秒もあればいろんな呪文の詠唱が終わるで。

GM  そういうことだ。じゃあ、何とか人一人が通れるようになったところで戦闘開始だ!

 

 まず部屋に飛びこんだのはリューリック。手近にいた用心棒Aに切りつけるも、盾に防がれる。待機していた用心棒AとBは、特出してきたリューリックを手持ちの剣で斬りつけるも、《盾》の支援を受けたリューリックは余裕で回避。リューリックは<倍速>による二度目の行動で、用心棒Aに手傷を負わせる。次にディックが部屋に飛びこみ、手近にいた筋肉質の女に槍で攻撃。チェインメイルを着ていた筋肉質の女はその槍の攻撃を喰らってしまうも、<悪魔>と契約したことにより手に入れた異常に丈夫な筋肉のお陰で何とか無事。そして、自分自身に<怪力>をかけていたことにより、モーニングスターを準備無しで振り回しディックに反撃を仕掛ける。

 

筋肉質の女  あたいの名は<ザ・テイル>! 妬みと憎悪の第四師団と契約した邪術師さ!

GM  確かに、お尻から獣の尻尾のようなものが生えている。

リネール  ネーミングセンス悪いですねぇ。

 

 ザ・テイルの攻撃はなんとクリティカル。ディックは一撃で生命力がマイナスに突入。しかも、ディックは我慢強くなく、このままでは一方的に攻撃され死んでしまう。そうはさせじと、ルミノールがテイルとディックの間に割って入る。

 

GM  奥にいたゴブリンが動くね。

ゴブリン  ワシの名は<ザ・ホーン>。血と殺戮の第七師団と契約した邪術師じゃが、わしは肉体労働担当ではないでな。本だけ持って退かせてもらおう。主は失ったが、この本があれば意志を継ぐことは可能じゃ。

GM  ザ・ホーンは《瞬間移動》で逃げる。で、その先には数十人のガヤンの戦士が待ち構えていてリンチにされるのだが、君たちにそんなことは分からない(笑)。

リネール  他の邪術師も<ザ・~~>なのでしょうね。

 

 安らぎなき死を司る第二師団と契約し、老いることない肉体を得た代わりスケルトンと化した邪術師、<ザ・デス>は大鎌でリューリックを攻撃。テイルと同じく《怪力》で体力を増強していたため命中したときの威力は格段に高いのだが、この攻撃は回避される。

 ラディ、リネールは部屋の中に入れない。ジェイルは必殺の《凍傷》で、テイルにダメージを与える。しかしタフで我慢強い彼女は、そう簡単には倒れない。デスのしもべのスケルトンと、淫靡の第六師団と契約した美青年、<ザ・ビューティー>は乱戦状態の扉周辺に近づけないため待機。

 

GM  強欲の第五師団と契約した鴉のミュルーン・ソーサラー<ザ・ウィング>はいきなり<悪魔>変身させてもらおうか。鴉人間の姿は変わらんが、頭が二つになり嘴が異常に鋭そうになる。さらに両手に鉤爪まで生えてくるね。

ディック  4回攻撃かいな。この状況じゃきつすぎるで。

GM  では、最後に残った肉の塊だ。

肉の塊  ぅわすぃのぬあぅわ、<ザ・ファット>ぅわすぃむぉ、たたくぁいは、にぐあてでぬあ。にぐぇすあせてもらう。

リネール  そんな発音で、まともに呪文の詠唱できるのですか?

GM  この世界の呪文の詠唱は精神を集中させるためのものだからね。個人個人で詠唱内容が違ったりもするし、声さえ出るなら大丈夫だろう。で、ザ・ファットも《瞬間移動》で逃げるが・・・

リネール  そこには、数十人のガヤン戦士が待ち構えているというわけですね(笑)

ルミノール  (両手を合わせて)南無~。

ディック  それは宗教が違うやろ(笑)。

 

 そんなギャグを飛ばしていられたのも最初のうちだけだった。リューリックは《倍速》と高い行動力を駆使し全力攻撃から通常攻撃につなぐ攻防一体の連係攻撃で用心棒Aを撃退するも、デスの《死の手》がかかった鎌の石突により大ダメージを受けてしまい転倒。ルミノールはテイルに更なる打撃を与えるが、不利を悟ったテイルは<悪魔>変身。ハンマーのような腕を持つ、鉄の猿に姿を変え、両手のハンマーと口から放つ憎しみの息でルミノールに痛手を与える。<悪魔>化したウィングは、リューリックに近づく。

 

リューリック  一対三はさすがにまずい! 誰か、援護を頼みます!

ディック  待っとれ、すぐそっちに行ってやる。

GM  そう簡単にいくかな?

 

 ようやく室内に入ったラディは、奥にいたビューティーとオートバトルを開始。この勝負の行方はPCたちの手に委ねられた。リネールも部屋に入り、<悪魔>化したテイルを攻撃するも外れ。ジェイルは再び《凍傷》をテイルに放ち、ダメージを与える。スケルトンたちは相変わらず動けない。

 次のターン、何とか起き上がったリューリックは、二度目の行動で、デスを攻撃。しかし《瞬間回避》で回避され、反撃の《死の手》で生命力がマイナスになる。何とか体制を立て直したディックはリューリックの援護に向かい、用心棒Bをクリティカルで始末する。攻撃を分散して勝てる相手ではないと悟ったルミノールは、負傷の一番大きなテイルを攻撃。この攻撃により、<悪魔>化したテイルは黒の月に送還される。わずか1ターンの活躍であった。<悪魔>ウィングは嘴と鉤爪の四回攻撃でリューリックを攻撃するも、フルプレートを着ている彼には生半可な物理攻撃は通用しない。動けなかった二体のスケルトンは、テイルの死によりルミノールに接近することができ、彼が自由になることで戦力のバランスが崩れることを防ぐ。

 めまぐるしく動いているため、時間の感覚を失いかけた第4ターン。リューリックはデスを集中攻撃。《瞬間回避》、鎌での「受け」を行わせた後、首を狙いリュードくんを振るい、デスの首を落すことに成功する。しかし相手は死を司る<悪魔>と契約した邪術師。首の切断面から骨が抜け出し、肋骨を足のように動かす骨の蟲といった風体の<悪魔>に変身する。そのあまりの気色悪さに、ディックは1ターン朦朧としてしまう。ルミノールは二体のスケルトンを自分に引き付け、フリーになったリネールをディックの援護に向かわせる。

 リネールは大振りで<悪魔>化したデスを攻撃。ダメージを与える。デスは肋骨を使いリューリックにさば折を仕掛けるため、組み付きを行う。ウィングはリネールに集中攻撃をかけるも、《盾》の呪文で回避率が上がっているリネールに三回まで回避される。最後の一撃を与え朦朧とさせるも、次のターンにはディックが復活する。ジェイルはリューリックに《大治癒》を集中。

 第5ターン。グレートソードブレイカーの間合いの内側に敵の侵入を許してしまったリューリックは、愛剣を捨て拳でデスを攻撃する。実は「叩き」攻撃に弱いデスはかなりのダメージを受ける。ルミノールは回避率の高いスケルトン相手になかなか有効打が出せない。

 朦朧から回復したリネールは、ディックとともにウィングを攻撃。装甲の薄いウィングは、非力な二人の攻撃でもかなりのダメージを与えることができた。デスはリューリックにさば折で攻撃。このダメージでリューリックは死亡判定を行う羽目になる。

 

リューリック  最近私、死亡判定を何度も行っている気がするなぁ(ころころ)何とか成功しました。

ディック  ほっ・・・あんさんに死なれたら、ワイの計画が台無しやしな。

ルミノール  何を計画しているのやら・・・。

 

 天使ヒーレル*1を失い知力が落ちたため、《大治癒》の判定値が大きく下がったジェイルだが、リューリックを目標になんとか発動を成功させる。ウィングはディックとリネールを攻撃するも、攻撃回数を分散したため、全てさばかれてしまう。スケルトンたちはルミノールを攻撃するも非力ゆえ鎧を貫けない。

 そして次のターン《凍傷》によりデスが死亡。さらに次のターンにディックとリネールの攻撃でウィング死亡。残ったスケルトンたちは、全員でタコ殴りにされた。

 

GM  美青年と切り結んでいたラディウスも、なんとか勝利した。

リューリック  何とか力押しで勝てて、助かった。

ディック  もう少し作戦練っておくべきやったのう。扉を開けた直後に《閃光》とか・・・。

ラディ  僕はそのつもりでしたが、扉の前に人が密集していたので、光る意味がありませんでした。

ルミノール  使えるのでしたら、早く言ってくださいよ。

ラディ  いえ。最前列にガヤンの神官がいらっしゃったから、てっきり使うとばかり思っていまして。

リューリック  どうせ私は、魔法なんて高度なものは使えませんよ。神官位だってただの名誉職だし・・・(いじける)。

 

 その後、一行は誘拐され洗脳作業を受けていた人々を部屋の奥で発見し、救出する。

 その翌日、月光蝶の被害を受けた高級住宅街にて、生存者の確認等の調査に協力する。

 

【つわものどもが悪夢の後】

 月光蝶の被害はかなり大きかった。ドームは高級住宅街全てを覆うほど巨大なものだった。跡形もなく喰われた人もいるため、正確な被害状況は分からない。深夜だったので、何も気付かないまま死んでいった人もいるだろう。高級住宅街には市長の家やガヤン最高司祭の家もあり、二人の死体は確認された。

 街の人々は言う。20年前の大爆発からようやく復興したと思ったら、魔界化事件が起き、その傷跡も癒えようとしている時に、今度は蝶による虐殺か…と。

 

ルミノール  悲惨としか言いようがないですね。

GM  そして、売れない小説家は本に書いていた「来る。世界を喰らう青い蝶が、私に迫ってきている。いざというときのために作っておいた鋼鉄の扉も奴らの前には無力だった。後ろで扉が崩れる音がする。もはや私にできることといえば・・・」

ディック  ええから、とっとと逃げろや(笑)。

GM  そう書かれていた最期の作品は、見事に蝶に食われて塵になったがね(笑)。

リネール  哀れですねぇ(笑)。

リューリック  そんなことより、生存者はいないのですか?

GM  今回は人口密集地を狙ったわけじゃないから、外周付近にいた人は助かった者が多い。ただ、ほぼ全員が、錯乱している。

ルミノール  そりゃ、あんな恐ろしい目に会えば、そうなりますよ。

GM  子どもが蝶に喰われて行くのに何も出来ないで逃げてきた母親なんかは、精神崩壊を起こした。ただ・・・

リューリック  ただ?

GM  15年前にフィーが起こした魔界化事件の被害は、今回の比ではない。

ディック  1000人を犠牲にして、1万人を助けたと思えばええってことか?

ジェイル  いくら俺でも、そこまでドライには考えられんぞ。

GM  少なくともそういう事実があるというだけだ。どう取るかは君たち次第。まあ、ヒンメルの真意が分からん以上は判断のしようがないと思うがな。

ディック  聞きに行っても、はぐらかされるんがオチやろうしな。

リネール  あいつが何を考えていたにせよ、邪術師は「悪」。それでいい。・・・具体的には何もできませんがね(笑)。

ディック  そやな。あんな歩く戦略兵器には手を出さんほうがええ。悔しいがな。

 

釈然としないものを感じつつも、次回へ続く

*1:白の月に住む精神生命体、<天使>の一種。魔術師が召喚し、魔術具に封印しておくと、治療系魔法に+1のボーナスが付く