黄金の羊亭新館

ガープスルナルのリプレイを公開しています

第9話【全ての未来のイヴたちへ~後編~】

白い影法師

ザイン  ナバールの詳細な情報を手に入れたい。市長に話を聞きに行こう。

アージス  裏タマットか、お前の妹に会ったほうがいいんじゃないか?

ザイン  市長は私設の密偵部隊持ってたからね。きっとナバールの情報くらい持ってると思う。コネは有用に使うべきだよ。

GM  うい。じゃあヴァイス市長の私室だ。市長は暗い表情をして、同じく元気のないルイーネの頭を撫でている。

ザイン  市長、お願いがあります。ナバールの上層部にいる、ナバール市長やシャルル、そして現体制に不満を持っている人物を教えてください。

ヴァイス  何故そのようなことを?

ザイン  市長に、ルイーネを狙っているのが、シャルルと言うナバールの宮廷魔術師だと言うことを教えます。そのシャルルを倒すためには、今のナバールの体制は邪魔なのです。

アージス  思ったんだがな。シャルルを暗殺するだけじゃダメなのか?

ザイン  シャルルには分身がいるって話だし、国がらみでDOLL研究に携わっている可能性がある。暗殺しても他のシャルルやその配下がルイーネを狙いつづける可能性があるからね。僕の目的は、研究そのものを続けられなくすることだよ。

ヴァイス  クーデターを起こす気ですね。しかし、それにより多くの血が流されることになりますよ。

ザイン  覚悟はできています。後の世が、僕を大罪人だと非難しても、僕はそれを背負って生きていきます。

ヴァイス  それは、ルイーネのために?

ザイン  違います。僕は僕のためにクーデターを起こそうとしています。ルイーネには何の責任もありません。

ヴァイス  あなたの覚悟は分かりました。しかし、民間人であるあなたに、そのような情報を渡すわけには行きません。

ザイン  そんな!

ヴァイス  ですから、私の部下になりなさい。

ザイン  え?

ヴァイス  私の持つ私設部隊、<白い影法師ヴァイスシャッテンビルト>の一員になりなさいと言っているのです。そうすれば、私の持っている情報を渡せますし、組織的な後方支援も行えます。あなたの妹も所属していますよ。

ザイン  いつの間に(苦笑)

ヴァイス  先日、実力を売り込みに来たのです。こちらとしても、若くて優秀な人材は欲しいですからね。

アージス  たしかに、あいつは見た目からは想像できんくらい優秀だったからな。

ヴァイス  バックアップだけでなく、チームに入れば、あなたが背負おうとするものの半分を私が背負うこともできます。あなたはまだ若い。どれほどになるか分からない重みを、この後もずっと背負っていくのは大変でしょう?

ザイン  ・・・分かりました、入隊します。いえ、入隊させてください!

ヴァイス  (にこっと笑って)あなたなら、きっとそう言ってくださると思っていました。では、最初の任務です。

GM  (親指を下に突きつけ)シャルルを殺せ!

ザイン  それはヴァイスさんじゃない(笑)

ヴァイス  ナバール市政の上層に関わっている、邪術師シャルルの排除および、DOLL計画の阻止を命じます。

ザイン  はい!

ヴァイス  ルイーネ。こんなに想ってくれる人がいるなんて、あなたは幸せ者ですよ。

ルイーネ  うん。ザインと一緒にいられて、私、幸せだよ。

ザイン  (照れてそっぽを向く)

アージス  ところで、そのルイーネはどうするんだ?今回はナバールに連れて行くわけにもいかんだろう。

ルイーネ  (上目遣いに)連れてってくれないの?

ザイン  ルイーネを狙っている奴がいるんだ。今回は危険すぎる。だからといって、ここにいても安全じゃないだろうし、精神衛生上よくなさそうだし。

アージス  こいつ(ルイーネ)の姉のところはどうだ?

ザイン  相手が普通の敵ならば問題はないだろうけど、飛んだり地中を移動したりする連中だ。多分ここより危険が大きくなる。

声  ならば、我がその子を守ろう。

GM  音もなくドアがあいたと思うと、そこには漆黒の少女が立っている。

ザイン  母さん?

ヴァイス  いつの間に?どうやって入ってきたのです?

メイア  正面から堂々とだ。

ザイン  市長、母さんに常識は通じないから、細かいことは気にしない方がいいよ。

ヴァイス  あなたのお母様?それにしてはずいぶんお若いですね。

ザイン  あ、その辺も気にしちゃダメですから(苦笑)

ヴァイス  はぁ・・・。

GM  呆然としているヴァイスをよそに、メイアはルイーネに近付く。ルイーネは、ちょっと怯えているようだ。

ザイン  母さん、迫力あるからね(笑)

メイア  ザインの妹ならば、我の娘だ。安心しろ。お前は、我が守る。

GM  メイアはルイーネを優しく抱きしめる。ルイーネは為すがままになってるけど、やがて安心した表情になるね。

ザイン  母さんが守ってくれるなら、僕たちも安心してやるべきことができるよ。

ルイーネ  (メイアに抱かれたまま)ザイン、気をつけてね?毎日連絡するよ?ちゃんと答えてよ?

ザイン  《思考転送》か。使えるかもしれない。ルイーネ、毎日決まった時間に僕に連絡を入れてちょうだい。僕もルイーネを通して、市長にも報告を入れるから。

ルイーネ  うん。分かった。

ザイン  市長、僕に考えがあります。僕があなたの組織に入ったということは、完全に伏せいていてもらえませんか?

ヴァイス  分かりました。

ザイン  では、次にナバール上層部にいる人物で、現ナバールの体制に不満を持っている人物を教えてください。

ヴァイス  私から聞くより、組織の一員でもある<乾いた大地亭>の主、ミッティ氏から聞いた方がいいでしょう。例の合言葉を言えば、協力してくれるでしょう。

アージス  (メモを見て)「蝙蝠は生きているか」「鼠の干し肉をご馳走したいんだが」だな。

ザイン  じゃあ、装備を整えたらさっさと出発しよう。

GM  市長の部屋から出ようとするザインに向けて、メイアが言う。

メイア  ザイン。お前が背負おうとするもの、我も肩代わりはできぬか?

ザイン  母さん。気持ちは嬉しいけど、いつまでも母さんに頼ってばかりじゃ僕がだめになる。それに、これは僕が背負わなきゃいけないんだ。

メイア  そうか。

ザイン  そんな悲しそうな顔しないでよ。

アージス  表情変わったのか?

ザイン  ずっと一緒に暮らしてたんだから、母さんの考えは何となく分かるんだ。

アージス  そんなもんかね。

ザイン  その代わり、全部が終わったら、僕の話を聞いてちょうだい。母さんがいなくなってから、色々あったんだからね。

メイア  ・・・分かった。だが、我と話をしていてもつまらぬだろう?

ザイン  そんなことないよ。

メイア  そうか。

GM  メイアはどことなく嬉しそうだ。

メイア  せめて、これを持っていけ。

GM  メイアはザインには綺麗な装飾のされた、青いハチェット。アージスには巾着袋を手渡す。

ザイン  これは?

メイア  先日、我が倒した相手が持っていた。効果は知らん。

ヴァイス  では、宮廷魔術師に鑑定してもらいましょう。

 

 鑑定の結果、ハチェットは《戻る武器》がかかっていて、投げたり落したりしても手元に戻ってくるもの。しかも投擲した場合に限り技能レベルとダメージに+1。巾着袋は、10カガルまでのものならばサイズに関わらず収納でき、しかも全く重さを感じなくなると言うプチ四次元ポケットだった。

 

アージス  俺までもらっちまって、いいのか?

メイア  持って行け。我には必要のないものだ。

ザイン  ありがとう、母さん。じゃあ、行ってきます。

メイア  ああ。

ヴァイス  気をつけて。

ルイーネ  ザイン、きっと帰ってきてね?私を一人にしないでね?

ザイン  大丈夫。僕は、死なない。

アージス  そう言って出て行ったきり、彼は戻ってこなかった。

ザイン  縁起でもないナレーションを入れるなっ!!

GM  (僕が言おうとしてたのに・・・)

 

再来の<最北都市>

 

 ザインとアージスは、長旅に必要な物資を買い込み、翌日には<最北都市>へと向けて出発した。

 

アージス  ところでだ、お前の母親って無茶苦茶強いんだよな?なんで協力を頼まなかった?

ザイン  母さんに任せると、上層部の暗殺とかの力押しになるからね。さっきも言ったけど、今回の目的はDOLL研究そのものを続けられなくすることなんだ。

アージス  分かるような分からんような。

ザイン  母さん、交渉ごと全然ダメだから。

GM  (読まれてるなぁ)では、そろそろナバール領内に入る。

アージス  確か、裏道から行かないと入れないんだよな。

GM  うん。アージスだったら「方向感覚」があるから覚えているかな。前回君たちが着てから12巡り(3ヶ月)程しか経っていないから、領内の様子にほとんど変化はない。

アージス  クーデターを起こすことに成功すれば、少しは庶民の暮らしはよくなるかもな。

ザイン  僕の目的はそんなことじゃない。目先のことに囚われていると、作戦は失敗するよ。

GM  遠くで煙が上がっているのも見えたりするが?

ザイン  気にしない。いや、気になるけど先に進む。

 

 アージスの案内の元、前回と同じ方法でナバール市内に入った二人は、そのまま<渇いた大地亭>へと向かう。

 

GM  んじゃ、前回通りのやり取りをすると、ミッティさんは中へと入れてくれる。

ザイン  僕が、市長の特務隊に入ったことも含めて、目的を話します。もちろん、完全に内密にするよう話した上で。

ミッティ  クーデターを起こすか。不可能ではないだろうな。すでにこの都市国家の政治体制は限界まで来ている。体制に反旗を翻そうとするものは多い。

ザイン  つまり、反乱軍があると?

ミッティ  有体に言えばそうだ。ただし、どこに本拠地があるかは分からん。

ザイン  知っている可能性がある者は?

ミッティ  2人ほど心当たりがあるな。どちらも、現在のナバールに不満をもつ者だ。

アージス  ついでに、他に現体制に不満を持っている上層部の話も聞こうぜ。

ザイン  そうだね。

ミッティ  思い当たるのは先の2人を含めて3人だな。

 

テオベルト・ブレーメン:愛称TB。外壁警備隊の隊長を勤めるジェスタの高司祭。愛称に似合わず巨漢。この都市国家で大半を占める、英才教育と洗脳を受けた上流階級と違い、現場のたたき上げ。それ故、市民に圧政を引く独裁政権に疑問を持っている。主に人材面で反乱軍を支援している。

ハーゲンジャー・ナイッス:元は<傭兵都市>オグマ出身。何を考えているのか独裁政権の街でカジノを始める。一部の上流階級が利用するため資金と情報はあるが、上納金の多さに不満を持つと言われている。しかし、実際は下らない理由で処刑された弟の仇を討とうとしている。自慢のスキンヘッドはハゲではなく、剃っているそうだ。反乱軍には資金、物資面で援助している。

ディーブ:アルリアナの高司祭。高い知力を駆使し、現ナバール№3の地位にある男。野心家なため、№3という地位に不満がある。

 

ミッティ  ちなみに、№1が市長のキルス・ウォード。№2が宮廷魔術師シャルルだ。

アージス  それにしても、チビ、デブ、ハゲか。覚えやすい名前だ(笑)。ナイッス家の奴もいるし。

ザイン  僕が思うに、ディーブって奴は脂ぎったデブで、異常な性癖を持っているに違いない(笑)

ミッティ  いや、名前からそう連想する奴は多いが、ディーブは線の細い超美形だ。異常な性癖があるのは確かだがな。

ザイン  どんな風に?

ミッティ  ショタコンの同性愛者だ。

アージス&ザイン ・・・・・・

ザイン  悪党決定。

アージス  遠慮なく、ぶっ殺せそうだな。

GM  (そこまで言うか?)

ザイン  ところで、ナバールが戦争を起こそうとしているのは事実なのですか?

ミッティ  間違いないな。今はシャルルの進言で待ったをかけているという情報があるが、恐らく、君たちの言うDOLL計画とやらが軌道に乗れば、即座に行動に移す気だろう。

 

 ミッティも交えた3人で相談した結果、まずは3人の中で一番安全そうなTBに会ってみることにする。

 ミッティから、TBは昼の紫の刻近くになると、必ず訪れる定食屋があると聞き、時間を見計らい二人はその定食屋へ。

 

GM  定食屋の中は、柄の悪い連中で賑わっている。

アージス  傭兵どもか。

ザイン  聞き忘れてたけど、傭兵の数が増えたってことはあるのかな?

GM  ある。というか、食うに困った一般庶民の中からそれなりに力や技術がある者は、傭兵になるしかない。だから増える一方。

アージス  フン。戦争を始めるには良い条件ってわけか。あ、これは声には出さないから。

GM  OKOK。そんなことを考えていると、身長2メルーはあろうと思われる巨漢が、定食屋に入ってくる。その男は、席に座ると、「いつもの頼む」と言うね。

ザイン  その席の前に座りましょう。

大男  君たちは?

ザイン  テオベルトさんですね。僕たちは反乱軍に入りたいと思っているものです。

大男→テオベルト  何のことか分からんな。

ザイン  僕たちはこの街の体制がどうしても許せない。ですから、どうかお願いです。

テオベルト  そんなことを声に出して言うもんじゃない。この都市国家じゃ、それを言っただけで罪になり捕らえられる。

ザイン  だから、そういうのが許せないんです!

テオベルト  君たちはまだ子どもじゃないか。

ザイン  もう15です。自分で考えて行動できます。

テオベルト  ・・・分かった。今夜、街壁警備隊の宿舎裏に来るといい。

 

 2人はその言葉に従い、深夜に警備隊の宿舎裏へと赴く。しかし、そこで夜勤の兵隊に見つかり、囲まれてしまう。

 

アージス  罠か!?

GM  とか思うと、向こうからテオベルトがやってくる。

テオベルト  いや、スマンスマン。遅れちまった。

兵隊A TB、あんたの知り合いか?

テオベルト  ああ。夜に飲む約束をしてな。

兵士B  人騒がせな。お前たちもTBの知り合いなら知り合いだと言え。

GM  そんなことを言いながら、兵隊たちは去っていく。

アージス  どういうことだこれは?

ザイン  僕たちを試したわけですか?

テオベルト  スマンな。スパイが俺たちの組織を探っている可能性もあるんでね。あっさりお縄につきかけるところをみると、そうではないようだがな。

ザイン  では、反乱軍は本当にあるんですね?

テオベルト  その話は、近くに安全な場所があるから、そこへ行ってからだ。

 

 2人はテオベルトに連れられ、昼の定食屋へと向かった。テオベルトの話によると、この定食屋の主もナバール解放軍の一員とのこと。

 ザインは、テオベルトは信頼できると判断し、自分の目的を正直に全て話すことにする。

 

テオベルト  つまり、君たちはその少女のために都市国家を傾けようとしているわけだな。

ザイン  はい。

テオベルト  いいね。気に入った。男はそうでなくっちゃな。

アージス  俺は楽しそうだから手伝っているだけだがな。

テオベルト  それで、具体的な案はあるのか?

ザイン  今のところは、反乱・・・いえ、解放軍に協力することくらいしか思いつきませんが、ディーブに近付けば、穴が探せると踏んでいます。

テオベルト  ディーブか・・・君を会わせて大丈夫だろうか。

ザイン  いえ。僕たちはこう見えても強いですよ。

アージス  いや。こいつが心配してるのは、そういう事じゃないだろう(苦笑)

ザイン  え?・・・ああ、ディーブの性癖のことね(苦笑) だから逆に付け入る隙があると思うんだ。テオベルトさん、ディーブに会うにはどうしたら良いでしょう?

テオベルト  そうだな・・・

 

 2人は、テオベルトからディーブが毎日通っている店と、解放軍のアジトの場所を聞く。

 

ようこそ禁断の園へ

GM  では、テオベルトに教えてもらった店の前だ。

アージス  ザイン交渉事は任せた。俺は外で待つ。

ザイン  それでいいのか、知力の高い魔術師(笑)

アージス  いざとなれば、騒ぎの一つでも起こして逃げやすくしてやる。

GM  レッドローズムーンという名の怪しい雰囲気の店の中に入ると、綺麗なママさんが迎えてくれる。

ママ?  (太い声で)あらン。ずいぶんと可愛い子ねェ。この店で働きたいのン?

アージス  ゲイバーかよ!

ザイン  物凄く帰りたい気分になったけど、ディーブに会うため、ここは我慢我慢・・・

ママ?  どうしたのン? だまっちゃって。

ザイン  あの、ここにディーブさんはいらっしゃいますか?

ママ?  あらン? あなた、ひょっとして<薔薇の棘>のに入りたい人? たしかに、あなたならディーブさんのストライクゾーンねン。今、呼んでくるわン。

GM  ママが引っ込んでしばらくすると、左右にアルリアナ信者らしき美少年を引き連れた、とてつもなく端正な顔だが線の細い、金髪碧眼の男が現れる。年は30代だろう。南国少年パプワ君のハーレムみたいな感じ。

ザイン  あなたが、ディーブさんですか?

ディーブ  (鼻にかかった声で)いかにもその通りだ。

GM  そういうと、ディーブはザインの全身を舐めまわすように見つめる。

ディーブ  (興奮した声で)素晴らしい。育ちの良さを表すような顔、黒い髪、適度についた筋肉、そして決意に満ちた目。どうだね、今宵は、私と(ザインの頬に手をのばす)。

ザイン  (その手を軽く払う)申し訳ありませんが、今、そのお誘いを受けるわけには行きません。

ディーブ  ならば、いつなら良い?

ザイン  今日は、あなたにとって得になる話を持って来たのです。まずはその話をしてから。できれば、2人きりで。

GM  (別にザインは嘘ついてる訳じゃないからな。「嘘発見」の技能では何か含んでいるという程度しか分からんか。そもそもそんなにレベル高くないし。)

ディーブ  ふむ・・・良かろう。ただし、武器は預からせてもらう。

ザイン  構いません。あなたと争う気はありませんから。

 

 ディーブは、店の奥にある個室へ、ザインを案内する。

 

ディーブ  (ふんぞり返って足を組んで)それで、私にとって得になる話とは?

ザイン  この街の№2、宮廷魔術師のシャルルを蹴落とす方法です。

ディーブ  (感情的に)シャルルか・・・あいつめ。キルスに戦争を仕掛けろと自分から吹き込んでおいて、今になって待ったをかける。全く何様のつもりなのだ。あのような魔術師なんぞが、何故私より上の地位にいるのだ。

ザイン  その戦争を、あなたが勝利に導けば、シャルルの地位はあなたのものになりますよね?

ディーブ  もちろんだ。だが、戦争を勝利に導くなど、言うほど簡単なことではないぞ。レナには連邦の駐屯軍もいるからな。そこで足止めを食うと、南からはナバール傭兵団、北からはドーガのジェスタ部隊に挟み撃ちだ。

ザイン  でしたら、レナを短期間で制圧できたとすれば?

ディーブ  強固な防壁と豊富な物資。それに、市民を人質にすることもできる。例え、最強の傭兵団と名高い<赤い彗星>が相手だろうと勝てるだろうな。

ザイン  僕の話を信じていただければ、レナの早期制圧は可能です。

ディーブ  ほう、面白いな。話してみろ。

ザイン  まず知っておいていただきたいのは、僕はレナの市長、ヴァイスに近付くことのできる人間だということです。先日、行方不明だった市長の娘が戻ってきたのは知っていますか?

ディーブ  話だけならばな。

ザイン  僕がその市長の娘を見つけ、連れてきたのです。そのせいか、市長は僕に心を許しています。だから、僕ならば市長に接近し暗殺することができます。市長が殺された混乱を突けば、レナの制圧など容易いでしょう。市長暗殺のタイミングを狙い軍を動かし、街を制圧。そして、市長暗殺を行ったのがあなたの指示により動いた人間だとキルス市長が知れば・・・

ディーブ  なるほどな。しかし、何故君は市長を暗殺したいのだ?

ザイン  GM、ここから先は、頭にシャルルのことを浮かべて話しますね。

GM  了解した。

ザイン  あいつは、僕の大切な妹を奪い、苦しめようとしていました。そして、先日、妹は傷ついてしまった。だから僕はあいつが許せない。あいつだけでなく、あいつを取り囲む周りのものも破壊してやりたい。そして、僕は妹が傷つくのを止められなかった自分自身が許せない。だから、目的を達成させるためならば、僕の身を投げ出してもいい。

GM  (隙がないな。ヴァイスとシャルルを置き換えることで、言ってることに嘘がなくなっている。「嘘発見」にペナルティをつけて(こっそりころころ)失敗か。)

ディーブ  (興奮したいやらしい声で)ますます良い・・・君の決意に満ちたその目が、快楽に堕ちていくその様を見てみたい・・・

ザイン  それは、僕があいつを殺した後、生きて帰ってきてからです。

ディーブ  フフフ、君は市長の命と引き換えに、自分も死ぬつもりなのだろうな。しかし、私が君の要求を飲む場合、一つ条件をつけてもらう。生き残り私のものになること。

ザイン  絶対の約束はできませんが。

ディーブ  今はそれでいい。今はな・・・

ザイン  それで、失礼ですがディーブさんは、市長に進言することで軍を動かすことができるほどの力はおありですか?できれば、証拠を見せていただきたいのですが。

ディーブ  もちろんだとも。そうだな・・・1巡り後、北門の防衛隊を全て撤退させ、私の<薔薇の棘>隊の者に警護を変わらせて見せようではないか。

ザイン  分かりました。では、一巡り後それを確認してから、またこの店へ来ることにします。

ディーブ  その時を楽しみにしているよ。フフフ・・・。

 

 無事ディーブから解放され、店を出たザインはアージスと合流。一旦<乾いた大地亭>へと戻る。翌日、ルイーネの《思考転送》による定時連絡の際、ザインは市長にディーブとの会見の一部始終を伝え、いつでも市長が暗殺されたという嘘情報を流せるようにして欲しいと伝える。その後、2人はテオベルトに教えてもらった解放軍のアジトへと向かう。

 一方、PCたちは知るゆえのないことだが、ディーブはザインが話した内容の裏を取るための情報収集を開始した。しかし、先のザインの話の内容をよく読めば分かるように、ザインは嘘をついていない。レインが市長の組織に入隊し、危険な任務を行っているのは事実。それに、短期間に大組織の中の個人が傷ついたか否かなどの細かすぎる情報の入手は難しいと判断し、GMは情報収集の判定にペナルティを与えて判定したところ失敗。

 また、ザイン個人の情報も、<白い影法師>の一員であることは組織ぐるみで隠されているため、ヴァイス市長の娘を連れてきた一般人であり、ヴァイスからの信頼が厚い人物という情報しかつかめない。こっそり尾行していたディーブの部下も、知力の高いアージスが発見し、撒くことに成功。

 ザインの欺瞞情報に、ディーブはまんまと騙されてしまった。

 

地底での戦い

GM  では、テオベルトの情報にあった、ナバール市内北部、森の中にある洞窟だ。

ザイン  危険はないって話だし、さっさと行こうか。

 

 ひんやりした洞窟内を奥へと進む2人。その先には小さな池があった。

 

GM  池の側には、美しい女性がたたずんでいる。

ザイン  あの、解放軍の人ですか?

GM  ジェイル、ちょっと「動植物知識」で判定してみて。

アージス  成功度5だが?

GM  じゃあ、ザインを止めた方がいいよ。あれはマゾニア・ラフレシアという食人のモンスターだ。

アージス  げ? 止まれザイン! そいつは危険だ!

 

 アージスの警告も一瞬遅く、ザインはマゾニア・ラフレシア(別名:死の花)の吸血おしべに襲われる!・・・のだが。

 

GM  だめだ。全然ダメージが通らん。しかも、簡単に《べたべた》*1のかかった花びらの上から脱出されるし。

ザイン  ふぅ、ありがとう魔法のプレートアーマー。一旦安全圏まで下がろう。

GM  言われてよく見てみると、美しい女性の足元は、巨大な青い花だ。女性はこのモンスターのめしべ。

ザイン  何でこんなところにこんな奴が? 危険はないんじゃなかったのか? まさか、テオベルトさんが僕たちをはめようとしたとか?

アージス  どうだろうな。解放軍のアジトを守る番人かも知れんぞ。

GM  ちなみに、めしべは最低でも5000ムーナで売れる彫像になるんだが。

アージス& ザイン  (目がキラーン)

 

 アージスの「強欲」パワーとザインの「けちんぼ」パワーが全開に発揮され、あわれマゾニア・ラフレシアは《鎧》の呪文で防護点が2桁に達したザインと、アージスのレンジ外《飛ぶ剣》によって切り刻まれてしまいましたとさ。

 

アージス  5000ムーナ~♪ 5000ムーナ~♪

ザイン  ひゃっほう♪

GM  さっきまでのシリアスさが一気に吹っ飛んだな(笑) 君らってそんな性格だったか?

ザイン  人間、一皮向けばこんなものだよ(笑)

GM  ちなみに、成功度5を出したジェイルなら知ってるが、マゾニア・ラフレシアは根っ子を引っこ抜かないと何度でも復活するよ。

アージス  だったら、何度も蘇らさせて、何度もめしべを狩って・・・

GM  ただし、めしべが人型になるには、源人の子生き血が必要。

ザイン  さすがにそれは・・・

アージス  だな。残念だが根は狩っておこう。

 

 ちなみに、洞窟のさらに奥にあった「ニセ拳骨*2の群れの中にある、本物のポロの拳骨*3を見つけよう」イベントも、きっちり本物偽者を見分けられ、偽者だけをばっちり刈られてしまいました。恐るべし「強欲」&「けちんぼ」パワー(笑)

 

ザイン  どうでもいいけどさ、どうして僕たち、こんなところまで来てお金儲けしてるんだろ?

アージス  成り行きだ。細かいことは気にするな(笑)

 

 そして、洞窟のさらに奥。そこで2人はようやく求めるべき場所に辿り着いたのだが・・・

 

GM  それなりにガタイのいい男たちが、君たちに槍を向けている。数は8人。

男A  何者だお前たち! 何故そんなところから入ってきた!

ザイン  何故って、僕たちはテオベルトさんに解放軍本部の場所を聞いてここに来た入隊希望者だけど?

男B  信じられないな。おい、だれかテオドールさん呼んで来い!

GM  一人の男が奥に引っ込み、しばらくするとザインと同い年くらいの青年を連れてくる。さわやかな印象をもった美青年だ。青年は、しばらく厳しい目で君たちを見つめると、にこっと笑う。

美青年  ごめんなさい。仲間が無礼を働いたようで。

GM  それを聞くと、男たちはホッとした表情で槍を降ろす。

アージス  ふん。まあ、組織柄しょうがないだろうな。

美青年→テオドール  僕の名前はテオドール・ブレーメン。テオベルトの弟で、サリカ様に仕える神官です。

ザイン  僕はザイン。ジェスタ様の神官です。

アージス  俺はジェイル。見れば分かると思うが、魔術師だ。

テオドール  しかし、何故裏口から?こちらは色々と危険があったでしょう?

アージス  裏口?

ザイン  僕たちはテオベルトさんにアジトの入口を教えてもらったんだけど?

テオドール  兄さん、また場所間違えたな(苦笑)

アージス  は?

テオドール  兄さん方向音痴なのですよ。いつも裏口と正面を間違えるのです。

アージス  おいおい(苦笑)

男B  しかし、よくあの化け物植物がいる所を無事抜けてこられたな。

ザイン  こう見えても、僕たち強いですよ。

 

 ザインは、テオドールに自分の素性とディーブとの会話の内容をかいつまんで話すことにする。

 

テオドール  なるほど。僕たちも、軍が動くタイミングを見計らって行動しようとしていましたが、あなたの作戦が上手くいけば軍の動きが分かる訳ですね。

ザイン  ええ。具体的な時間がわかり次第、報告します。

アージス  だったら、俺がここに残ろう。《思考転送》は使えるんでな。

ザイン  使えたんだ。知らなかった(笑)

アージス  ついでに5000ムーナの彫像と、高級キノコも俺が守っておこう。

ザイン  それがメインの目的じゃないだろうね(笑)

テオドール  では、ザインさん、あなたの働きに期待しています。

ザイン  はい。

 

 とは言ったものの、次の行動まで開きがあるザインは、解放軍のアジトを見学することにする。そのついでに、解放軍メンバーの実力も見てみることに。

 

GM  一般的な構成員は、素人以上一流以下と言った所か。具体的にはメインの武器技能が11レベルから13レベル。君なら3人同時でも相手ができるだろう。

ザイン  数は多いけど、錬度は大したことないか。もともと、正規軍と正面勝負するつもりはないから、大丈夫だろうけど。

GM  そんな中、一人だけ剣の腕が優れている女性がいる。

ザイン  へぇ。どんな人?

GM  一見男性と見まちがえるような中性的な女性。後ろでポニーテールにした髪を赤く染めているのが印象的だ。声も女性にしてはかなり低音で、宝塚系。年は20代前半かな?

ザイン  あ、それってぶっちゃけ僕の好みかも。

GM  それはプレイヤーのか? キャラクターのか?

ザイン  両方(笑)

 

 この緊急事態にありながら、ザインは女性を口説き始めるが相手にもされなかった。他の解放軍メンバーから女性の名前は通称<赤毛の>セキ。旅のリャノ信者でありながら、解放軍の中心人物の一人であるとの情報を得るだけに留まる。

 

ザイン  うう、残念。僕がこのアジとに居続けると、ディーブに情報漏れるかもしれないから、もう行くね。定時連絡よろしく。

アージス  おう。5000ムーナは任せとけ。

 

 そして六日後、ザインは北門の防衛隊が、ディーブの私設部隊<薔薇の棘>メンバーに代わっていることを確認した。

 

Checkmate!

 

 北門のメンバー交代確認後、ザインはローズムーンへと向かった。

 

ディーブ  どうだね。私の力は理解してもらえたかな?

ザイン  ええ。

ディーブ  キルス市長には、すでに今回の作戦を進言してある。君がレナの市長に近づくことが容易い人物であることも調べさせてもらった。後は、君がいつ行動を起こすかだ。

ザイン  レナまでは、歩いて2巡りだったよね。だったら(少し考えて)軍隊がナバールから経ちレナに到達するまで20日はかかりますよね?

ディーブ  このような作戦はスピードが命だ。強行軍を行い10日で攻め入るべきだ。

ザイン  でしたら、今から30日後に行動を起こします。それに合わせて軍を動かしてください。

ディーブ  良いだろう。こちらは10日で体制を整え、20日目には国境へ移動しておこう。国境からならば、5日でレナ中心部だ。市長暗殺の報が入り次第、速攻をかける。それでは、今夜は前祝でも・・・(ザインに手をのばす)。

ザイン  (手を払う)約束では、僕が身をささげるのは全てが終わった後だったはずですよ?

ディーブ  ・・・まあ良いだろう。その日を楽しみにしているよ。そうそう。レナに向かうときには、この証明証を付けて行くがいい。ナバール内ならば、どこの関所だろうと通れるようになる。

ザイン  分かりました。

 

 ザインは、その日のアージスとの連絡の際、30日後のことを伝え解放軍に伝言を頼む、そして一旦一人でレナに戻ることを伝える。ナバール市内に留まったままでは、ヴァイス市長暗殺計画が嘘だとばれる可能性があると判断したからである(そして、この判断は大正解)。さらに、ルイーネとの連絡でも同じことを伝える。

 

ザイン  向こうはかなりの強行軍が予想されます。間違いなくナバール軍は最短ルートで移動するでしょう。

ヴァイスの声  分かりました。すでにドーガに駐屯している連邦最強の正規軍、<鉄の城>隊には連絡をつけてあります。進軍途中のレナ領内に、挟み撃ちに最適な場所がありますから、そこに部隊を展開しておいて戴けるよう、進言しておきますわ。

ザイン  ありがとうございます。

ヴァイスの声  いえ。お礼を言うのはこちらの方ですわ。

ルイーネの声  ザインは帰ってくるんだよね?

ザイン  うん。でも、すぐにナバールに戻るよ。戦争を引き起こしておいて、後ろで座っていることは僕にはできそうにない。解放軍の力になりたいし、シャルルも倒さなきゃいけないからね。

ルイーネの声  (寂しそうに)・・・うん・・・分かった。

ザイン  何はともあれ、一旦レナへ帰りますので。

ヴァイスの声  では、レナ領に入った最初の町に、馬を用意しておきましょう。

 

 8日後、ザインは無事レナへと帰還。人目を忍び市長宅に向かい、ヴァイス市長から具体的な作戦内容を聞きだす。

 

ヴァイス  義父に頼んで、<鉄の城>を動かすことには成功しました。彼らは今ごろ、リカバーの谷周辺で極秘裏に部隊を展開していることでしょう。

GM  リカバーの谷は、レナから歩いて2日の位置。強行軍ならば1日半で着く。

ザイン  では、ナバール軍は、13日は足止めされるわけですね。

ヴァイス  ええ。その間に、クーデターの決着をつけてください。

ザイン  分かりました。ナバール軍と<鉄の城>が戦闘に入ったら、《思考転送》で知らせていただけますようお願いします。

GM  さて、市長と話している間、ルイーネはメイアの膝の上でつまらなさそうにしているが?

ザイン  ルイーネ。もうすぐ終わるから、もう少し待ってて。今回のことが終われば、もっと一緒にいられるようになるから。

ルイーネ  ホント?

ザイン  だから、僕が無事帰ってこられるように、祈っててちょうだい。

ルイーネ うん!

ザイン  それと市長。誰か、僕に変装させた人物に、この証明証を持たせておいてください。恐らく、《方向探知》や《追跡》がかかっている物なので、僕が持っていたら今までの嘘がばれる可能性がありますから。

GM  (どうしてここまで勘が良いんだこいつはっ!!?)

ヴァイス  分かりました。信頼できる部下に渡しておきますわ。

 

 最後に、22日後に市長暗殺の嘘情報を流すことを忘れないように頼み、ザインはルイーネの《瞬間移動》でナバールに戻る。そして、人目につかぬよう解放軍のアジトへ向かい、全ての情報を解放軍の幹部に伝える。

 

ザイン  魔法的手段で瞬間的に情報が行き来できる世界だからね。クーデターのタイミングは、向こうが戦闘を開始した時がいいと思う。

テオドール  分かりました。では、22日後の深夜、あなたたちも例の定食屋へ来てください。

アージス  何故定食屋?

テオドール  本格的な活動を起こす際は、ナバール市内の各所にある拠点から動くことにしているんです。定食屋は市庁に近いので、最も重要な戦略拠点です。

アージス  つまり、俺たちは市庁舎へ強襲する役なわけだな。

ザイン  望む所だよ。もともと、そのつもりだったし。

セキ  軍が動けば、市内の駐屯軍は500程になるはずだ。それならば、我々にも勝機があるな。

テオドール  しかし、市庁舎の警護に当たっている者は、英才教育で人工的に創り上げられた天才集団<優人隊>。数は20程度で市庁舎襲撃人数の十分の一でしょうが、油断はできません。

 

 解放軍は、クーデター決行に向けての情報伝達を始める。その間、暇なアージス&ザインは、解放軍の連中と模擬試合などをしていた。・・・決戦前に怪我人が出たらどうするつもりだったのか。

 

ザイン  セキさんと僕じゃあ、どっちが強いですかね?

GM  剣技能はセキの方が上だし、体力も高いけど、彼女は我慢強くない。《音噴射》を使う分セキの方が多少有利かな?

ザイン  なんとか、この試合を口実にもっと話ができないかな。

GM  (口説く気満々だよこいつ)

 

 しかし、いつもの会話のキレはどこへやら。ザインのしどろもどろなアプローチは、セキには何の効果もなかった。

 

ザイン  女の人を口説いたことってないから、しょうがないかな。仕方がない。まずはやるべきことをやろう。

GM  さて、他にやる事がないならクーデター決行前夜へ移行する。

 

魔城堕ちる

GM  定食屋の裏には腕に覚えのある連中200人近くが集まっている。テオドールとテオベルトが、その人たちの前で演説している。

ザイン  僕は僕で思う所があるので、右から左だと思います。

アージス  結局セキさんと仲良くなれなかったなぁ・・・とか(笑)

ザイン  違う!

アージス  馬鹿話はいいとして、ルイーネからの《思考転送》はまだか?

GM  ブレーメン兄弟の演説が終わってすぐに、ザインの頭の中に声が響く。

ヴァイスの声  ザインさん。今、ナバール軍と<鉄の城>が戦闘に入ったとの報告がありました。

ザイン  テオベルトさん!

テオベルト  よし。どうやら時が来たようだ。今夜、キルスどもは市庁舎の会議室にいるとのことだ。目指すは市庁舎会議室のみ。自由を我が手に!

解放軍 自由を我が手に!

GM  解放軍のサリカの術師たちは、《思考転送》を使い、各拠点の仲間にクーデター決行を知らせているようだ。

ザイン  待っていろシャルル。お前は僕が倒す!

 

 ザインとアージスは、解放軍とともにナバール市庁舎へ向かう。夜間に不意を突かれた市庁舎警備隊はあっさり黙らされ、20人の<優人隊>も数の暴力にはかなわず。意外なほど簡単に解放軍は会議室へと辿り着いた。

 

GM  会議室で座っているのは6人。厳つい顔の髭男が市長のキルス・ウォード。超美男中年がディーブ。魔術師風の優男がシャルルだろう。残り3人はエキストラ悪の幹部。その他十数人の護衛らしき人物がいる。

テオベルト  キルス・ウォード! 罪なき民を蔑ろにし、己の楽しみのみで国を動かす独裁者よ!ジェスタ神の名のもとに、お前の偽りの壁を撃ち砕く!

ザイン  テオベルトさん、今殺しちゃダメですよ。こいつは市民たちの前で、公開処刑しないと。今まで神と崇めてきた相手が目の前で処刑されれば、市民たちも目を覚ますでしょう。

アージス  それはいい考えだな。

テオドール  しかし、顔に似合わず怖いこと考えますね。

ザイン  これでも一応、後のナバールのことを考えた発言なんだけどね(苦笑)

GM  本人目の前にして、そんなこと話すわけね(笑)

ザイン  そんなことより、僕たちの目的はただ一人!

キルス ええい! 侵入してきて一方的にしゃべりまくり、私に発言させんとは何事だ!

ザイン  悪いけど、あんたに興味はない。シャルル!

GM  すると、魔術師風の中性的な人物が立ち上がる。

シャルル  軍が動いたときから、こうなるだろうということは予測できていましたよ。キルス市長、今まで私の財布として働いていただき、ありがとうございます。しかし、私はもうこの街にもあなたにも興味はない。退かせていただく。

キルス  なんだと!? お前ご自慢のDOLL部隊とやらはどうしたのだ!?

GM  シャルルはキルス市長を無視し、《瞬間移動》を使い消える。

ザイン  しまった! 逃げられた!

アージス  となると、俺らが相手をすべきは後一人。

GM  ディーブはゆっくりと立ち上がる。

ディーブ  どうやら、私は君に騙されていたようだな。だが、君以外の誰かがヴァイス市長の暗殺は決行したようだ。今私たちを倒した所で、レナを落としたナバール軍が戻ってきた時、相手ができるかな?大人しく降参したまえ。

ザイン  ああ、あの情報嘘。

ディーブ  何?

ザイン  市長が殺されたって情報、あれは僕が流した嘘情報。ついでに言うと、いまナバール軍はリカバー谷で<鉄の城>の挟撃受けているはずだよ。

キルス  どういうことだディーブ!

ディーブ  フフフ・・・どうやら私はまんまと君に騙されてしまったようだ。私の判断力をも狂わせた君の魅力、どうしても私は欲しくなった。たまには力ずくで心を奪うというのも良いかもしれん。

GM  アルリアナ蹴打術使いと思われる、二人の美少年がディーブの前に立つ。

ザイン  ディーブは僕たちに任せてください。

セキ  ならば私は、ザコどもの相手をしよう。キルスへの恨みは、ナバール市民が晴らすべきだろうしな。

GM  では、戦う相手も決まった所で、ナバール編最終決戦開始!

 

 したのはいいが、この戦い、ザインが母からもらった、戻って来るハチェットと、アージスの《飛ぶ剣》を回避し損ねたディーブはあっさり気絶してしまい、わずか2秒で決着がついてしまった。

 

美少年  (膝を突いて手を合わせ)素晴らしい、あなたは美しいだけではなくお強い。どうか、私たちをお仕えさせてください!

ザイン  悪いけど、僕はそういうふうに力に媚びる人って大っ嫌いなんだ。とっとと失せてよ。

アージス  いや、拘束しておこう。

GM  他のこの場にいるナバール幹部も軒並み捕らえられた。今後どうなるかは分からないけど、クーデターの第一段階は成功だね。

ザイン  後はもう僕たちの関わることじゃない。ここにいる解放軍の人たちが、きっとナバールをより良い街にしてくれる。

アージス  じゃあ、帰るか?

ザイン  まだだ。以前市長を助けるために行った、シャルルの研究所へ向かいます。

 

イヴの唄う哀歌

GM  街を歩いていると、各地で勝利を喜ぶ声が聞こえる。しかし、旧シャルル研究所は静かなものだ。

ザイン  DOLLは?

GM  いない。以前数百体いたところも、がらんとしている。

ザイン  奥に行きましょう。

GM  最深部。市長が捕らえられていた部屋に入ると、青い髪のルイーネが倒れている。

ザイン  どうしたんだブラウ?

GM  近付くと、ブラウの胴体は大きな刃物で真っ二つに切断されている事が分かる。切断面からは、緑色の液体が流れ出ているね。

アージス  どけザイン。俺が回復呪文を・・・

ブラウ  無駄ですよ。もうわたくしは助かりません。

ザイン  (抱きかかえて)だれが・・・いや、その前に、何で君がこんな目に?

ブラウ  シャルル様に、わたくしの目的がばれてしまったのです。ですから、不良品として処分されてしまいました。まさか、ロートのマスター登録がシャルル様に移っていたなんて思いもしませんでした。

ザイン  じゃあ、この傷はロートに?

ブラウ  (頷く)

アージス  あんたの目的ってのはなんだ?

ブラウ  以前も言いましたでしょう。わたくしは、本当にDOLL・・・妹や弟たちが、戦争の道具にされるのが嫌だったのです。ですからわたくしのできる範囲でシャルル様に抵抗し、気付かれないよう遠回しにあなたたちに警告を発したのです。でも、隣りにスパイがいたなんて、お笑いですね・・・なんて言っても、信じてもらえないでしょうけどね・・・。

ザイン  信じるよ。

ブラウ  (驚いた顔をして)え?

ザイン  君の言ったこと、信じるよ。

ブラウ  ありがとうございます。・・・わたくしのローブの内側に、地図があります。その地図の印の場所に、シャルル様の研究所の一つがあります。そこに弟たちやシャルル様がいるかは分かりませんが、探す手掛かりにはなるでしょう。

ザイン  地図は見つかりますか?

GM  探すならすぐに見つかる。

ブラウ  勝手なお願いであることは分かっています。どうか、妹や弟たちを助けてください。

ザイン  ああ。任せて。約束するよ。

ブラウ  ・・・もう一つ、お願いしても良いですか?

ザイン  なんだい?

ブラウ  ・・・このまま、抱きしめていてください。

ザイン  ・・・ああ。

ブラウ  ・・・不思議ですね。全然痛くないのに、体が寒くなっていくのは分かるんです。でも、今はとても温かい・・・

ザイン  ・・・・・・。

ブラウ  もう少し早く、違う形であなたと出会いたかった。もう少し長く、あなたと一緒にいたかった。ルイーネ姉さまが羨ましいです。

GM  ブラウは、目に涙を浮かべながら笑顔を作る。

ブラウ  でも、もうさよならです。わがままを聞いて下さり、ありがとうございました。そして、おやすみなさい・・・

GM  ブラウは、何かを掴もうとするかのように手を伸ばす。

ザイン  その手を掴みます。

GM  そして、最期に大きく息を吐いて・・・そのまま事切れた。

ザイン  ・・・・・・おやすみなさい。

アージス  ・・・今回ばかりは、俺もかなりむかついた。シャルルとか言う奴、許せねぇ。

ザイン  そして、ロート。ブラウの仇は僕が取る!

 

 2人は、ルイーネ・ブラウの亡骸を運び、丁重に弔った。ザインは、ブラウの持っていた杖を形見として持っていくことにする。

 

帰還、そして新たな戦いへ

GM  さて、事後報告だ。解放軍の電撃作戦で、ナバールの官僚の多くは捕らえられた。暫定政府ではテオドールが市長を勤めるそうだ。

ザイン  まあ、適任だろうね。

GM  んで、復興作業には連邦軍も協力している。いままでのナバールではありえなかった光景だ。

アージス  キルス市長はどうなった?

GM  連邦の裁判にかけられる。独裁政治や、市民からの搾取だけならともかく、人間ハントや都市国家がらみでの麻薬密造、国家反逆罪など、罪を上げれば限がない。この国は邪術師以外の死刑制度は認めてないけど、半分邪術師みたいなものだ。死刑の可能性も大きい。

アージス  あいつ、そんなことまでやってやがったのか。

ザイン  こういう手合いは、裁判の途中逃げ出すことが多いから、気をつけないとね。

GM  そして、ナバール軍。高速移動で疲れている上陣形が乱れている所を不意をつかれて挟撃された上、相手は完璧な布陣を組んだ連邦最強軍。勝負にならないどころか、死者数は軽微で、ほとんどの者が捕らえられるという結果に終わった。もちろん逃げた者もいるが。

ザイン  さすがに、5000人の兵団全てを捕らえることは無理だろうね。

GM  そんなわけで、君たちはナバールを解放に導いた勇者として、人々に伝えられているのだが?

アージス  言っておくが、俺は何もしていないぜ。ザイン一人で国を落としたようなものだ。

ザイン  それは拡大解釈しすぎだよ(苦笑)

GM  名誉市民証とかは?

ザイン  いらない。僕は、僕の目的のために行動しただけだから。ナバールの人たちをそれに巻き込んでしまったって言う負い目もあるし。そういえば、セキさんは?

GM  君たちがシャルルの研究所に行っている間に姿を消した。

ザイン  ちぇっ。

アージス  おまえ、ルイーネが知ったら焼き餅焼くぞ?

ザイン  僕はルイーネを異性として見られないから、しょうがないよ。

GM  じゃあ、<看護都市>レナだ。市長宅に戻ると、ルイーネがザインの胸に飛び込んでくる。

ルイーネ  ザイーン! 私、良い子にして待ってたよ!

ザイン  一緒にいてやれなくて、ごめんな。

ルイーネ  ううん。ザインは私のために戦っててくれたんだよね。私、それがすごく嬉しい。

ヴァイス  本当にお疲れ様でした。やはり、あなたは私の思ったとおり・・・いえ、それ以上の方でしたわ。

ザイン  どんな期待されてたんだろ(苦笑)ところで、母さんは?

ヴァイス  メイアさんでしたら、クーデター成功直後「危険は去った」とおっしゃられて出て行かれました。ルイーネを助けていただいたお礼を言う暇もありませんでしたわ。

ザイン  何かあったのですか?

ヴァイス  床から何かが現れるのを見越していたかのように動かれて、床から出てきた「何か」を退治してくれましたわ。

ザイン  床から現れたってことは、ロートか? ブラウの仇は、僕が打つまでもなかったみたいだね(苦笑)

アージス  それもいいが、マゾニア・ラフレシアの彫像や、高級キノコはどうした?

ザイン  あ。

アージス  解放軍のアジトに忘れてきちまったな(苦笑)

ザイン  市長! 早馬貸してください! ルイーネ、また数日いなくなるけど、すぐに戻ってくるから待っててな!

 

 かくして、人々を苦しめた独裁政権は崩壊した。しかし、革命の功労者である少年の目的が、逃げられた宮廷魔術師の命であったことを知るものは少ない・・・

 

ザイン  (馬を走らせ)うをぉぉぉ! 5000ムーナァ!!

アージス  待ってろよ、すぐに換金してやるからなぁ!!

GM  (苦笑)

 

オチもついたところで、未来のイヴ編 第1部~完~

そして第2部第10話「真っ暗闇の森の遺跡」へ

*1:足が地面にくっついて離れなくなる魔法。マゾニア・ラフレシアの花びらの上は、その魔法と同じ効果のある粘液がついている。

*2:キノコ型のモンスター。高級キノコに擬態し、人を襲う

*3:高級キノコ。グラム数百ムーナ