黄金の羊亭新館

ガープスルナルのリプレイを公開しています

第12話【世紀末救世主伝説】

 

【リネール…永遠に】

GM  さて、前回メイアに助けられたリネールだが・・・

リューリック  ヒンメルの実験体に(笑)。

リネール  それだけは絶対に嫌だ。だいたい、何で私がヒンメルに気に入られたのですか!?

ディック  一番あの女に食ってかかっとったんは、あんさんやでやろ(笑)。

リネール  う・・・そうかも・・・。これから反抗的なおもちゃとして扱われるのかなぁ・・・。

GM  安心しろ。君が目を覚ましたのは、ライアン渓谷近くの洞穴だ。名も知らぬ神が盛大に燃え上がっているから、渓谷の方向も分かる。

リネール  よかったぁ・・・。皆を探して、渓谷へ行きましょう。

GM  渓谷に行ったのなら、皆との合流は簡単だ。

ディック  おわ!リネールはん、化けて出おったか(笑)。

ルミノール  悪霊退散! 《死人祓い》!(笑)。

リネール  まだ生きていますって(笑)。ちゃんと足も生えていますよ。

ルミノール  確かに、シャイニング・サンにも、「アンデット感知」にも反応はありませんね。

ジェイル  一応《霊気感知》もしておこう。

GM  エルファのオーラを放っているね。

リネール  死んでもいませんし、偽者でもないですって。

リューリック  しかし、あの状況でどうやって助かったんだ?

リネール  メイアさんに助けられたことを話しましょう。ヒンメルに気に入られたことは隠しておきます(笑)。

ディック  それがええな。それを知ったら、ワイらはリネールはんを見捨てるかもしれん(笑)。

GM  では、そんなことがあってから約二日。

リューリック  そろそろ家に帰りませんとね。

GM  君たちは、不毛の大地の真中にいた。

一同  は?

 

Tough Boy

ジェイル  砂漠にいるってことか?

GM  その通り。

ディック  アンリ国内に、砂漠はあるんか?

GM  竜の住むと言われる山々に囲まれた中央砂漠があるけど、そこは魔法的な効果で作られた砂漠であって、地平線が見えるほど大きなものではない。

リューリック  何故私たちがこんなところに?

GM  前後の記憶ははっきりしない。ただ、肉の塊に潰されたギュンター家の別荘に、無事な所持品がないか確認しに行ったのは覚えている。

ディック  よく分からんが、銀の月のバケモンがおったところや。変な場所に飛ばされるくらいは十分にありうるで。

GM  あ、そうそう。魔法使いの方々は、マナ*1が通常より薄いことに気付く。

ジェイル  呪文が使えないってことか?

GM  いや。ルナルの平均的な地域のマナは、「密」しかし、ここは「普通」だ。魔法の素質の特徴があれば、普通に魔法は使える。

ディック  そや、空を見て「ランドナビゲーション」技能と方向感覚で位置の確認を行うで。

GM  空は塵のようなものに覆われて、太陽も星も月も見えない。月から送られてくるマナが薄いのは、そのせいかもね。

ディック  一体どうなっとんのか、状況確認が最優先やな。空を飛んで近くに町でもないか探すで。

GM  南の方に集落のようなものが見えた。

リネール  蜃気楼の可能性は?

GM  気温は寒いくらいだ。これで蜃気楼が発生するなら、魔法的なものでしか考えられん。

ディック  他に情報がないなら、行ってみるしかないな。

GM  歩きづらい砂地を四刻(約6時間)。君たちはようやく集落に辿り着いたね。集落の中心には井戸があり、周辺にはテントがたくさん張ってある。人々は、皆疲れたような顔をしていたのだが、君たちが来たのを見ると、目が輝きだす。

リューリック  嫌な予感がしますね。

リネール  集落ぐるみの強盗か?

GM  いや、人々の目は、ディックに集中している。

ディック  嫌な予感がするのう(笑)。

GM  ディックの予想通り、人々の瞳の中に映る欲望の色は食欲(笑)。口々に肉、鳥、食料と呟きながら、手斧や槍を持って君たちに近づいてくる。

ディック  やばい、逃げるで。

ジェイル  いや。ここは俺に任せろ《パニック》の呪文*2で、奴等を追い払う。(ころころ)成功だ。

GM  (ころころ)あれ? 全員抵抗に失敗。武器を持って近づいてきた人々は、突如原因不明の恐怖に襲われ逃げ出す。

ディック  おお、さすがは<悪魔>の力や(笑)。

ジェイル  うるさい!

リネール  奴等の動きを見る限り、この集落に食料は少ないみたいですね。

ディック  しかも、ワイを鳥やと思うて捕らえようとした。ミュルーン自体が珍しいんかもな。

GM  とか話してると、テントの中から手を叩きながら出てくる人物が一人。長くて黒い髪が印象的なシャストアのマントを羽織った美少女だ。

リネール  ひょっとして、エフィさんとか言いません?(笑)。

美少女  あたし?あたしはエレミウム。エルって呼んで。そんなことより、あなたたちなかなかやるわね。

ジェイル  ふん。あのくらい当然だ。

エル  いいわねその自信。それだったらどう?この集落で用心棒やってみない? 食料はないけど、水は豊富よ。水があればいずれ食料もできると思うわ。

ディック  ああ、ちょっと待ってくれなはれ。ワイら遠くから来たもんなんやけどな。この国の状況がどうなっとるんか、よう分からんのや。できれば話を聞きたいんやが。

エル  ふぅん。だったら、長老様の所に案内してあげるわ。

ルミノール  それは助かります。

GM  君たちは他のものより少し大きなテントに案内される。中にはひげを生やして杖を持った魔術師風の老人と、エルにそっくりなアルリアナの格闘家風の美男子がいる。そこで全員知力判定。成功度5以上の人は?

一同 (一斉にサイコロをふる)

ルミノール  (結果を見て)いないみたいですね。

GM  ふむ。それじゃあ、君たちが入ってくると、一瞬格闘家が身構えるが、エルと一緒だとわかると構えをとく。で、エルが長老に君たちの紹介をしてくれるね。

長老  ほほう、今時エルファやミュルーンとは珍しい。

ディック  珍しい?

リネール  ここには、エルファやミュルーンはいないのですか?

長老  いないというか、あれ以来見かけんな。ミュルーンは食料として乱獲されたらしいのじゃが、エルファはどこへ消えたのやら・・・

ディック  (複雑な表情で)食料・・・。

リネール  あれ以来とは?

長老  わしらが地上に出たときからじゃよ。

リューリック  地上に出た?

ディック  ずっと地下にでもおった言うことか?

GM  そ、そこに、外から警鐘の音が聞こえる。「敵襲だー」とか、「奴等が来たぞー」とかいう声も聞こえる。

リューリック  敵襲!?

ルミノール  奴等?

長老  むぅ・・・ギルシティの連中め、また来おったか。ジーク、エル頼んだぞ。

エル  まかせて。(Vサイン)

格闘家(ジーク)  行くぞ!

リューリック  加勢に行きましょう。

ジェイル  まてよ。状況も分からず戦うのか?

リネール  しかし、まずはこの集落から話を聞きたいですからね。加勢に行って恩を売っても損はないでしょう。

ディック  そやな。ところでGM、ギルシティって名前に聞き覚えは?

GM  んにゃ。さっぱりない。

ディック  うーむ・・・。まあ、考えてもしゃあない。まずは敵を倒して恩を売る。その後情報収集や。

GM  テントを出ると、南の方から砂煙が上がっているのが見える。目の良い人なら分かるが、手斧や棍棒、弩などを持った柄の悪い連中の乗った馬だ。

ルミノール  数は?

GM  30強。対する集落の人間は10人程度だが、ジークとエルの錬度は相当高そうだ。ラージシールドでバリケードを作って、隙間からスリングで狙っている。

リューリック  私たちは接近戦しかできませんからね。近づいてからが勝負だ(笑)。リュードくん、ファイア準備!

リュード ラジャー。

GM  スリングの連射で馬から叩き落とされ人数が半減しながらも、敵は集落に接近する。その中で君たちに向かってきた者は5人。手斧が二人、棍棒が二人、後は刀を持った男が一人。

リネール  刀持ちは微妙に浮いてますね。多分他のやつらより強いでしょうが。

リューリック  だったら私が相手になりましょう。

 

 リネール、ディック、ルミノールが手斧、棍棒と対峙。リューリックは刀術士と一騎打ち。ジェイルは後方から援護にあたる。

 手斧、棍棒はしょせん多少タフなだけの雑魚。ディックの重要器官狙い、リネールのフェイントからの攻撃、ルミノールの脳狙い、ジェイルの《凍傷》の前に、ものの数秒で倒される。

 しかし、刀術士とリューリックは互角。剣の腕前はリューリックが上だが、正面から切りかかるだけのリューリックの戦法では、高い受け流し能力を誇る刀術士には通じない。逆に、「受けられた太刀や硬い鎧ごと相手を両断する」ことを目的とした、奥義・剛破断*3により、脳天に刀を叩きつけられ気絶。

 しかしその後、刀術士もフリーになったルミノールの脳狙い攻撃を受け、あっさり気絶する。

 

ディック  よし、勝ったで。

ジーク  ほう。やるな。

リネール  気絶しているこいつらはどうします?

ジーク  放してやれ。どうせこっちじゃ捕虜として扱えるほどの食料もない。馬はいただいていくがな。

ジェイル  貴重な食料だな(笑)。

エル  や~、君たちのお陰で今回は誰も犠牲にならないで済んだよ。

リューリック  私は大ダメージ受けましたがね(苦笑)。

エル  何かお礼がしたいんだけど?

ディック  それやったら丁度ええ。ワイらがこれから言うことを信じてほしいんやが・・・

リネール  実は私たち、銀の月の魔法か何かで、ここじゃないどこかから飛ばされて来たのです。

エル  ふーん・・・って、ええぇぇぇぇえ!? ・・・マジ?

ルミノール  マジです。

ディック  少なくとも、ここがどこかも、今が双月暦何年なんかも分からんのや。

エル  双月暦・・・ってなに?

リネール  へ?

ディック  双月暦を知らんっちゅーことは、ここはルナルやないんか?

ルミノール  でも、この人はシャストア信者ですよ。

ディック  双月暦が使われんようになったんかいな?

エル  よく分からないけど、長老様なら何か知ってるかも。聞いてみたら?

ディック  そうやな。長老のテントに向かうで。

GM  では、長老のテントだ。

リネール  では、長老にさっきエルさんに言ったことを、もう一度言いましょう。

長老  双月暦か・・・我々が地底から出て早10年。そのような暦は地底にいた頃から、最早使わぬようになっておった。そもそも、地底では日時が分からんかったしのう。

ジーク  今でも太陽の光はわずかしか届かん。

ディック  地底に潜ったということは、地上で何かあった言うことか?

長老  うむ。我々は大破壊と言っておるのじゃが、地上に未曾有の危機が訪れたのじゃ。その時、多くの者が黒い賢者様に率いられ、地底に潜った。そして、その危機が去るまで、地底で生活しておったのじゃ。

リネール  黒い賢者ねぇ・・・

リューリック  大破壊っていうのは、具体的に何が起こったのか分からないのですか?

長老  皆忘れてしまった。正確には、黒い賢者様に大破壊の恐怖を忘れさせてもらったのじゃ。

ディック  《完全忘却》の呪文かなんかかいな。

ジェイル  その黒い賢者は、今どこにいるんだ?

長老  我々が潜んでいた地底のさらに奥に、今でもいると伝えられておる。じゃが、事実かどうかは分からん。

ディック  元の世界に戻るのも重要やが、その大破壊とやらも調べてみたいのう。

リネール  この世界が、もし私たちの住む世界の未来の姿であったならば、いずれその大破壊とやらが襲ってくる可能性がありますからね。

リューリック  大破壊に関して、知識がある可能性がある方を知りませんか?

長老  黒い賢者様ならば当然知っておられよう。他には、ここよりはるか西、緑あふれる楽園の島があるという。そこの支配者は多くのものを知っていると言う。また、南西のギルシティの知識階級は大破壊の研究をしていると聞く。

ルミノール  ところで、ギルシティと言うのは?

長老  ここから6日ほど南西に行ったところにある大きな街じゃ。水も食料も豊富にあるのじゃが、ギルと名乗る男がそれらを管理し、民を支配しておるのじゃ。

エル  ちなみに、あたし達は支配されるのが嫌で、こんな辺鄙なところに住んでいるの。

ジーク  この集落を襲う理由は、やつ等は自分達に従わない者を、力で従わせようとしているのさ。

ルミノール  ラストランド*4ですか?

GM  イメージはまんまそれ(笑)。

リネール  なにをするにしても、ここでは情報が少なすぎますから、先の三つのどこかに行くことを提案します。

ディック  同感やな。どこへ行くかやが・・・

 

 相談の末、ギルシティは独裁者の支配する街ゆえ、危険が大きそうなのでパス。西の楽園は、歩いていくと30日近くかかると言うのでパス。消去法により、一行は北の洞窟の奥深くにいると言われる、黒い賢者を探してみることにした。

 

GM  水はわけてもらえるけど、食料はもらえない。

ディック  ワイの魔法の鍋二号も、材料がないと料理は作れんしのう。

リネール  カアンルーバキノコなら持っていますよ(笑)。

リューリック  誰が食べるか、そんな毒キノコ!(笑)。

ジェイル  前回、非常食が入った荷物は肉の塊に飲み込まれたしな。薬は無事だったが、非常食として飲む物じゃないだろうな(笑)。

ルミノール  私はリュックもって逃げましたから、10食分は持っています。

ジェイル  《水作成》の呪文ならば使える。いざとなれば、水で空腹を紛らわすしかないだろう。人間水があれば相当長い時間生きられるらしいからな。

 

SILENT SURVIVOR

 集落で一泊した一行は、計画的なのか、行き当たりばったりなのか分からない作戦を立て、北西にあるという地底への入口目指す。途中はぐれ<悪魔>や強盗団に襲われることもなく、空腹を抱えたまま6日間北西に向かって歩いた。

 

GM  君たちの目の前には、もう何万年も手入れされていないような、ボロボロの巨大建造物のなれの果てがある。縦もでかいが、横はとてつもなく長い。

ディック  ドーガの面影はないんか?

GM  あるね。

ディック  やったら、ワイの方向感覚でワイらが最初に立っていた場所が、アンリ連邦で言うところのどこに当たるか考えてみるで。

GM  フム。知力判定には成功? だったら、そこはギュンター家の別荘があった場所になるのではないかと君は思った。

ディック  やっぱりか。

ルミノール  少なくとも、ここはルナルのようですね。並行世界か、未来の世界かは分かりませんが。

GM  君たちに並行世界という概念はないと思うがな。

ルミノール  では、未来の世界と思うことにしましょう。

ジェイル  それで、地底への穴は見つかるのか?

GM  うん。長老が言ったとおりの場所に、半分砂で埋まっているけど、それらしき大穴がある。

ディック  ほな、入ってみるか。

 

 一行は先頭にリューリックとディック、間にリネールを挟み、後列にジェイルとルミノールという隊列で地底へと続く穴へと潜る。当然、閉所恐怖症のリューリックにはルミノールが<勇気>の呪文をかけて、恐怖を押さえている。

 そして歩くこと数刻、複雑な、迷路状の道に迷ったり、落とし穴にはまったり、別の出口へと出てしまったりしながらも、一行はかつて人が住んでいたと思われる大空洞へと辿り着いた。

 ちなみに、落とし穴に落ちた連中を救ったのは、<悪魔>との契約によって手に入れた、壁や天井にはりつく能力を使ったジェイルだった(笑)。

 

リューリック  <悪魔>が! 怪しい能力を使いやがって(笑)。

ジェイル  その能力に助けられたのは誰だよ。だいたい俺は好き好んでこの姿になったんじゃない!

リネール  それで、地下空洞とはどういった場所なのですか?

GM  巨大な地底湖もあるし、周辺には食料にもなるコケや植物なんかも棲息している。他に食料系呪文の使い手でもいれば、苦しいが千人単位で生活できたかもよ。

ディック  あの長老はんら、相当苦労したんやろうなぁ・・・。

ジェイル  黒い賢者とやらはいないのか?

GM  見当たらないね。君の《生命感知》にも反応はない。

リューリック  他に抜け道なんかあるかもしれませんね。

ルミノール  調べてみましょう。

 

 一行が周辺を探索したところ、地底湖の奥に、ここ以外のどこかに通じる穴があった。《水中呼吸》の呪文は使えないが、何故か水泳が得意な者の多い一行。地底湖から奥へと続く穴は、10メルー弱の短いものであると分かり、鎧を脱ぎ荷物をまとめ、泳いで奥へと進む。

 

GM  水の中を通って出た先は、またも広い空洞になっているね。奥に進むにつれ、細くなっていくみたいだけど。

ディック  まずは体を乾かさんとな。風邪引いてまうで。

ジェイル  呪文の《火炎》ならば、燃えるものがなくても、しばらくは燃えつづけるな。

GM  ふむ。じゃあ、そうやって暖を取っていると、奥のほうからなにやら物音がする。

リューリック  誰だ!? 《持続光》の棒を向けます。

GM  一瞬映し出されたその姿は、ヤドカリとタコを掛け合わせたような変な生き物。すぐに奥に引っ込んだがね。

リネール  「神秘学」の知識はあります。多足のもの?

GM  どっちかってーと、「異種族学」か「考古学」の知識*5だと思うが、まあいいや。リネールの言うように、銀の月の神の中で、大地の神を崇める種族、多足のものだろう。

ルミノール  何故このような場所にいるのでしょうね?

GM  (みんな、前回の依頼選択時の『ドーガ近くにできた多足のものの掘った穴の調査』ってのがあったこと忘れてるな。)

ディック  それは分からんが、関わりたくない相手やのう。

リューリック  引き返しますか?

ディック  いや、ここまで来て情報が全く手に入らんのは正直痛い。危険かもしれんが、覚悟を決めて奥に行くで。

リネール  行くのは暖を取り終えてからですがね。

ルミノール  食用の植物や苔もありますから、腹ごしらえもしておきましょう。空腹の疲労を抱えたままでは、冷静な判断力も失いますしね。

GM  ゲーム的には、空腹による疲労の半分、様々な判定にペナルティがかかると思ってくれい。

 

 動植物に詳しいジェイルと、毒物に造詣が深いルミノールの集めた苔と植物で空腹を満たした一行は、異界の生物と何ら変わりのない、多足のものの住みかと思しき地下空洞の奥へと進む。

 空洞は途中から通路となっていた。一本道の三叉路や、地底へと続く上り坂、曲がりくねった真っ直ぐな道などを苦労しながら通り抜け、途中多足のものの造ったモンスター、メスクリンやグノーメと戦いながらも、地底深くにあると言われていた、多足のものの都市へと辿り着いた。

 

GM  そこいら中に、前衛彫刻よりも理解不能なものがあり、その周りをイワヤドカリが回っていたり、かまっていたりと、とにかく意味不明。

ディック  理解する気にもならんがな。

リネール  人間の言葉が理解できる奴はいませんかね?

GM  さっきの偵察係は君たちのことを見かけたわけだしね。それはそっちが探すまでもなく、こっちから出向く。鉄板を持った二匹の多足のものが、君たちに近づいてくる。そもそも声帯がないから筆談だが。

ルミノール  私たちが言っていることが分かりますか?

GM  多足のものは、触手から分泌される酸を使って、鉄板に文字を書く。

多足のもの (筆談) イエス。アナタタチハナニモノデ、ナンノモクテキデココマデキタノデスカ。

リネール  私たちは黒い賢者という者を探しています。知っていますか?

GM  多足のものはなにやら地面を叩きだすね。

ジェイル  多足のもの同士の意思疎通だな。

多足のもの (筆談) ナニカオモシロイモノヲクレタラ、オシエテアゲヨウ。

リネール  でしたら、ハイ。カアンルーバのキノコ(笑)。

ジェイル  毒キノコを渡してどうする!

GM  多足のものどもは、どうやらキノコであることは理解したようだ。一方が一口齧ってみると、突然ふらついて倒れた。すぐに立ち上がって、また二匹で意思疎通を開始する。

多足のもの (筆談) スゴイキノコダ。オモシロイ。

リネール  気に入ったのでしたら、まだありますよ。ここで栽培してみては?

リューリック  麻薬マーケットでも作る気か(笑)。

リネール  それもいいかもしれませんね。そうなれば、ここの多足のものは、カアンルーバのキノコ無しでは生きられない体に・・・。私が支配することも可能です(笑)。

ディック  やることが邪悪やのう(笑)。

ジェイル  お前も黒の月のお仲間だな(笑)。

リューリック  外見はエルファだから、ゲルーファと言ったところか?

リネール  失敬な! 私は黒の月と契約するくらいならば、死を選びます!

ディック  そういう感情も<悪魔>に付け入られそうや(笑)。

ルミノール  多足のものを支配するなら、銀の月とも契約していますね。

リューリック  じゃあ、銀の月と契約したゲルーシャとエルファの中間で、ギルーファってことで(笑)。

ディック  確か、南西の街の支配者はギルとか言っておったのう(笑)。

リューリック  リネール、お前まさか・・・

リネール  断じて違います!

GM  (ボソっと)面白いネタを聞いたな・・・。

リネール  待ったGM。今何と言いました?

GM  いや、気にするな。多足のものは、筆談を続ける。

多足のもの (筆談) クロイケンジャナラ、ソレラシイモノヲシッテイル。イバショモワカル。

 

 一行は、カアンルーバキノコの他、気前のいいディックが集めた無意味な収集品のいくつかを多足のものに渡し、黒い賢者の居場所まで案内してもらうことにした。

 途中多足のものが作っている、人間(ドワーフやミュルーンもいるが・・・)の理解の範疇を超えた建造物を目にし、リネールやジェイルが気分を害したり、案内の多足のものがカアンルーバキノコを齧ってトリップしかけたりしながらも、人間にとっては心理的な迷路と化す多足のものの地下都市を抜け、小さな洞穴のような場所に辿り着いた。

 

GM  そこにいるのは、杖を抱え座り込んでいる漆黒の少女。

一同  へ?

ルミノール  ライダーキックのお姉さんですか?

GM  その通り。年を取っているようには見えないが、美しい顔には疲労の色しか見えず、君たちに会ったとき着ていた黒いドレスも、今ではボロボロの黒ローブと化しているがね。どうやら眠っているみたいだが、君たちが近づくと目を覚ます。

メイア  ・・・誰だ。

ディック  メイアはんやったな。何であんさんが、こんなところにおるんや?

メイア  ・・・貴様らは・・・。

リネール  私たちのことを、覚えていないのですか?

メイア  ・・・我を騙してどうする? 今の我には何の力もないぞ。

ジェイル  騙す?

ディック  別に騙すつもりはないで。あんさんが黒い賢者なんやったら、聞きたいことがあるだけや。

メイア  ・・・知らんな。

リューリック  (ため息をついて)相変わらずコミュニケーションが取りづらい人ですね。

リネール  しょうがありません。私たちが今置かれている状況を、全て説明しましょう。

 

 リネールは、恐らく銀の月の小神と関わったことが原因で、見知らぬ砂漠に飛ばされたこと。今がいつで、ここがどこなのかも分からないが、集落の人々から話を聞き、何かを知っているであろう黒い賢者という者に会いに来たら、メイアがいたことを話す。

 

メイア  ・・・・・・。

リネール  ・・・あの、聞いていますか?

ディック  せめて、今がいつぐらいは知りたいんやが。

メイア  ・・・貴様らの言う小神が目を覚ましたのは、今から20年前のことだ。

リューリック  やっぱり、未来世界に飛ばされたようですね。しかし、何故この人は年を取っていない?

ジェイル  人間じゃないからだろ? 何の種族かは知らんがな。

ディック  飛ばされた原因は分からんか?

メイア  あの神の司る属性の中には、「時間」もある。

ルミノール  やっぱりあれが原因ですか。

ジェイル  元の時代に戻る方法はないのか?

メイア  知らん。

ジェイル  (ボソッと)フン。役に立たない奴だ。

ルミノール  元の時代に戻る方法は、別の場所で探すことにしましょう。

リネール  後一つ。世界がこのようになった原因を教えてください。

メイア  ・・・・・・。

ジェイル  それも知らんか。

ルミノール  話したくないだけかもしれませんよ。

ディック  なあ、メイアはん。ワイらが元の時代に戻っても、数年後こんな世界になってもうたんでは意味がない。原因を知っとる可能性のあるあんさんの協力があれば、大破壊を止められるかもしれんのや。

GM  メイアは口をつぐんでいるが、しばらくしてつぶやく。

メイア  ・・・姉上の力が・・・暴走した。

 

 メイアは語る。

 双月暦1112年44巡り目の安息日、西ネクロス島中央砂漠にて、青い光が黒の月に向かって発射されたのが全ての始まりだった。

 最初は多くのものが不吉に思っただけであった。しかし二日後、不吉な思いは現実へと変わった。

 空を覆い尽くすほどの何千兆とも思われる、全てを食い尽くす青い蝶の群れ。

 まずは<王都>アンリが壊滅した。その情報が各都市に広がるより早く、蝶の群れは島中に広がっていった。アンリ連邦最強の防衛軍<鉄の城>も、最強の突撃隊<赤い彗星>も、マリク魔法兵団の最終兵器<大鉄人>も、蝶の前には全くの無力だった。100万の蝶を一瞬で灰にしようとも、次の瞬間にはその1000倍の蝶が襲い掛かってくるのだ。

 人々は逃げた。ある者は海へ、ある者は地底へ、ある者は空へ。しかし、蝶は貪欲に逃げる者達をも襲っていった。メイアは、一千人ほどの人々と共に地底に避難した。そして、執拗に追ってくる蝶から身を守るため、地底への通路の岩盤を砕き塞いだ。地底に住んでいた多足のものと交渉し、蝶の恐怖に怯える人々の記憶を消し、ドワーフの力を借り村を作った。

 そして10年の月日が流れた。地上に偵察に向かった多足のものから、蝶が消えたという報告を受け、メイアは人々に地上の脅威は去ったと伝えた。人々は1年かけて塞いだ岩盤を取り除き、地上へと出た。

 そこで見たものは不毛の大地だった。しかし、人々はそこで生きることを望んだ。メイアは体と心を癒すため、地底に残った。

 その後の人々ことは分からない。他の国がどうなっているかも分からない。何故蝶がいなくなったかも分からない。メイアにとってそれは知りたくもないことだからだ。蝶が消えたということは、メイアの姉も消えてしまったということだから。

 

一同  ・・・・・・。

メイア  それが、我の知る全てだ。

リネール  <悪魔>の力なんか使おうとするからですよ。制御できなくなって暴走するのは当然です。

メイア  普通の邪術師ならばな。だが姉上は違う。

リネール  大抵の邪術師はそう言います。しかし、現にヒンメルさんの力は暴走し、このような世界になったのでしょう。

メイア  ・・・姉上一人の魔力では、貴様の言う通り制御し切れなかったのかもしれん。だが、あの<悪魔>には、かの<太陽の騎士>テック・マーレンが封印を施している。姉上はその<悪魔>自らの内に取り込み、さらに強力な呪をかけ封印した。

リネール  何故そのようなことを?

 

 メイアは再び語り始めた。

 伝承によると、<悪魔>戦争時代、大英雄の一人テック・マーレンは、件の<悪魔>と戦い、肉体の半分を破壊することはできたが、倒すことはできなかった。よって、封印することにしたのだという。

 <悪魔>の力は今の地上の様子を見ればわかるとおり、放っておけば島一つ、あるいはもっと遥かな広範囲を食い尽くことなど容易いほどのもの。

 今より600年程前、ヒンメルは山奥で強力な黒い魔力を察知。探索をしてみたところ、封印の施された<悪魔>を発見した。調べてみると封印にほころびがあり、ヒンメルはそこから漏れる<悪魔>の力を探知したのだ。

 さらに調査を進め、その<悪魔>がとてつもなく危険であることと、封印の効力があと100年足らずで解けることを知ったヒンメルは、先ほど言ったような行為に及んだ。それによって封印の効力は数十倍にまで跳ね上がったはずだという。

 

ディック  つまり、<悪魔>が世に出ないように、自分自身の体に封印したわけやな。

ジェイル  それであんな邪悪な性格になっわけか。

メイア  いや。あれは姉上の“素”だ。

ジェイル  あ、そう(苦笑)。

リューリック  人類を救うために、爆弾を抱え込んだわけか。

リネール  では、何故アストリアやジョルジュで虐殺を行ったのです!?

メイア  知らん。そもそも、姉上に人類を救う気があったのかも分からん。

ディック  結果的に人類のためになったみたいやが、かといって正義の味方とみるのは危険や言うことか。

リネール  邪術師が善人のわけがありませんよ。

リューリック  私もそう思いますが、その論議は後にしましょう。それほどの封印がありながら何故暴走したのです?

メイア  それは分からん。だが、姉上の想定外の要因が外から加えられたのだろう。

リューリック  大破壊を防ぐには、ヒンメルが暴走しないようにすればいい。暴走を防ぐには、その外からの要因とやらを探して防げば良いわけですね。

ディック  やり方は分からんがな。

リネール  その方法は元の時代に戻ってから考えることにしましょう。メイアさん、協力してはもらえませんか?

メイア  ・・・今の我では無理だ。

リネール  いえ、元の時代に戻ったときに、向こうのメイアさんの協力を仰ぎたいのです。ですが、ただ話をするだけでは聞く耳を持っていただけないでしょう。羊皮紙とペンはありますから、未来のあなたから過去のあなたに協力を求めるような手紙をいただきたいのです。

ルミノール  なるほど。

ディック  逆タイムカプセルやな(笑)。

メイア  ・・・よかろう。

GM  メイアは羊皮紙にペンを走らせる。それを丸めて、リネールに渡す。

リネール  何と書いたのですか?

メイア  ・・・もしも中身を見たら・・・貴様を消す。

リネール  わ・・・分かりましたよ。・・・好奇心は押さえました。

メイア  もう一つ。もしも、姉上を殺して暴走を止めるという気ならば、過去の我は容赦なく貴様らの敵に回る。

ディック  安心せい。ワイらではヒンメルはんを殺せん(笑)。

リューリック  てか、戦いたくない(笑)。

メイア  それならば良い。・・・我はもう疲れた。少し休ませてくれ。

リネール  他に聞くことはありませんよね?

ディック  貴重な情報とアイテム(メイアの手紙)は手に入ったでな。ワイらも帰るとしよう。

リネール  メイアさん、ありがとうございました。

GM  眠りに入る前に、メイアはつぶやく。

メイア  姉上を・・・頼む・・・。

 

【WIND&RAIN】

 一行は、多足のものの地下都市を出て、途中食用苔や植物を採取し、不毛の大地へと戻った。

 

リューリック  大破壊の原因は分かりましたが、元の時代に戻る方法はさっぱりですね。

ディック  幸い食料は手に入った。西の島か、ギルシティに行ってみるべきやな。

ルミノール  さすがに、西の島までは行くには、食料が足りませんよ。

ジェイル  じゃあ、ギルシティに向かうしかないな。

 

 一行は6日かけて南東の集落へ戻り、そこからさらに南西に6日、ギルシティへと向かった。途中ギルシティのならず者と思しき連中と戦闘になったが、あっさり撃退。つつがなくギルシティへ辿り着いた。

 

リューリック  ふと思ったのですがね、未来世界で日数が経過した場合、元の時代に戻ったときの日数はどうなっているのですかね?

ジェイル  言われてみれば気になるな。

リューリック  経過日数が過去と未来とでリンクしていると、私、子どもの出産に間に合わないかもしれません(苦笑)。

ディック  婿養子がそれをやるのはあかんで~(苦笑)。

ルミノール  では、出産に間に合うように、急いで戻る方法を探しましょう。

GM  そんなことを話しながら歩いていると、ギルシティと思われる建物が見えてくる。

ディック  空飛んで偵察するで。

GM  ギルシティは、砂を固めて作ったブロック・・・要するにレンガで造られた城の周辺に、水路が作られ、さらにその周辺にレンガ作りの家が並んでいる町だ。さらにその周りにはテントがたくさんあり、外周は、レンガでできた外壁が囲んでいる。外壁周辺は警備員らしきならず者もいるが・・・空のディックには全く気付いていない。

ディック  レンガの家は上流階級のものなんやろうな。

リネール  町の様子はどうです?

GM  巡回をしていると思しき、ならず者は多いが、全体的に静まり返って見える。

ディック  今は昼間やでな。町の連中はどっかで働かされとるんかもしれん。

リューリック  町に侵入して情報収集がしたいですが、警備員もいるみたいですし、昼間の侵入は難しいですかね?

ジェイル  いや、《飛行》の呪文で空から近づける。リューリックとルミノールに呪文をかけてやるから、俺を運べ。ディックとリネールは自力で飛べるだろう。

 

 一行は空からギルシティに侵入を試みる。侵入自体は簡単だったのだが、着地後リネールが忍び足判定に大失敗。足元のバケツにつまずき、盛大な音を立ててテントに激突。テントごと倒れこんだ。

 いくら頭の悪いならず者の警備員でも、さすがにその音には気付いた。リネールは得意の《幻覚》で壁を作り隠れる。しかし、運悪く警備員の一人がその壁にもたれかけようとし、幻覚は破られてしまう。驚いて身動きの取れない警備員達に、一行は先手必勝とばかりに襲い掛かり撃退するも、その騒ぎを聞きつけ、5人のサムライウォリアーと10人のならず者警備員に囲まれてしまう。

 

GM  君たちが飛び道具を持っていないのを確認すると、敵は遠巻きにじりじりと近づいてくる。

ディック  一旦バラバラに飛んで逃げるで。集合場所はワイから南に100メルーや!

一同  は?

 

 それだけ言い残し、ディックは一足先に空へと逃げる。他の一行も、とりあえずディックの指示通り、バラバラに空に避難し危機を脱出(ジェイルはリューリックに抱えられて飛んだので一緒に行動)。

 警備員やサムライはそれを追いかけようとするが、移動力に差があり、飛び道具も持たないためあっさり逃げられる。

 ディックは一旦町の外に逃げ、ミュルーンの特殊能力の一つで雷を落し、そこから100メルー南下。しかし、他のメンバーは、ディックの言った言葉の意味が分からず、一行は合流できないまま、息を潜め、夜を迎えた。

 その後、暗視を持ち、梟に化身することで空を飛べるリネールが仲間を探して夜の空を飛び、なんとか一行は合流を果たす。

 

ディック  ワイ以外雷なんか落とせんやろ。そっから南に100メルーんとこで合流や言うたつもりやったんやがな。

リューリック  さっきの説明では、そんなことまで分かりませんよ(苦笑)。

ジェイル  だいたい、南に100メルーなんて、方向感覚でも持っていない限り、正確に計れるものじゃねぇだろ。

ルミノール  まあまあ。合流はできたのだから、良しとしましょうよ。

リネール  さて、今回のことで、集団で行動するのは危険だということが分かりましたね(笑)。

ジェイル  警備員に見つかったのはお前のせいだ。

リネール  それは謝ります。しかし、やはりここは潜入調査の専門家の私に任せてください。

ディック  それがベターかも知れんな。

リューリック  犠牲になるのは一人で充分です(笑)。

リネール  だれが犠牲になるといいましたか! 夜のうちに、町に潜入し、《幻覚》で変装して一日かけて様子を見てきます。あなたたちは、町から死角になる位置に砂丘をみつけたので、そこに潜んでいてください。

ディック  そうさせてもらうで。頼んだでリネールはん。

リネール  任せてください。

 

 《化身》を使い、闇夜に紛れギルシティに単身潜入するリネール。さらに《幻覚》と《幻覚変身》の呪文を使い、どこにでもいそうな平凡な男性に化け、労働階級が寝泊りしているテントの中に侵入。そのまま朝を迎える。

 テントの人々は、早朝に警備員に起こされ、街の地下へ連れて行かれ、新たな地下水を探させられていた。しかし、働く人々の顔は疲れ果てた奴隷のそれではなく、仕事にやりがいを感じている労働者の顔であった。リネールは、それとなく近くにいた労働者に、今の自由のない生活に不満はないかと聞いてみることにする。

 

労働者  働いていれば飯も喰えるし水ももらえるんだぜ? サボったときの罰は怖いがな。だいたい、自由があったとしても、この不毛の大地で何ができるわけでもないだろ?

リネール  てっきり、住民を奴隷化した恐怖政治が行われている町かと思っていましたが、そうではないみたいですね。

GM  うん。飴と鞭を上手く使い分けている感じだ。

リネール  ギルに会うためには小細工が必要かと思っていましたが、正面から謁見を求めても大丈夫かもしれませんね。

 

 労働時間終了後、リネールは城へ向かいギルへの謁見を求めるが門前払いを喰らう。しかし、ここで引き下がっては、情報収集を主な役目とするカアンルーバ氏族の名折れ。得意の《化身》や《幻覚》を駆使し、城への潜入を試み、ギルの部屋があると思われる城最上階に到達する。しかし、そこで邪術師風の老人に発見され、命からがら逃げ出す羽目になった。追っ手を撒いたリネールは、仲間と合流。町で入手した情報を話し、今後の作戦を立てる。

 

ディック  町は思ったより安定しとるみたいやが、町の中枢に邪術師がおる言うことか。

ジェイル  労働階級の連中は、操られている可能性があるな。

リネール  操られていようとなかろうと、邪術師がいる町をこのままにしておくことはできません。公然と邪術師を倒し、かつギルに会うチャンスを作る作戦があります。

 

 リネールの作戦とは、《流言》の呪文を使い、労働階級の人々の間にギルの側近に邪術師がいるという情報を流すと同時に、北から救世主が現れるという噂を広るというものであった。自分たちが救世主として、町の人々から迎え入れられるよう仕向ける魂胆である。

 その作戦に、ディックは「救世主は、三日後北の空に3度雷が煌めいた日に現れる」という内容を付け加えるように指示。神秘的な演出効果を含めることで、自分たちが救世主であることを思い込ませやすくしようという考えである。当然雷は、ミュルーンの特殊能力<落雷>を使い、意図的に呼び寄せるつもりだ。

 翌日、リネールは再び《幻覚》で姿を変え、労働者たちの中へ潜り込み、そこで作戦どおりの噂を流す。

 

GM  《流言》の呪文の効果もあって、噂は瞬く間に労働階級の人々たちに広まる。

リネール  自由を手に入れる気はなくても、邪術師に支配されても良いという人はさすがにいないでしょう。

GM  いないことはないが、ごく小数だ。こんな時代でも<悪魔>は恐ろしい存在らしい。

リネール  さて、後は三日後まで待つとしましょう。

GM  ところがだな。噂を流した翌日、町が妙に騒がしいね。

リューリック  何事だ?

リネール  《化身》して、様子を伺いに行きましょう。

GM  すると、労働階級から、ならず者風警備員、カルシファードウォリアーまでもが、城の前の広場に集まっている。

ディック  お、ひょっとしてギルの会見でも始まるんか?

リネール  城のテラスのほうに近づいて行ってみましょう。

GM  テラスには、二人のカルシファードウォリアーを左右に従わせた、ローブを目深に被った長身の人が姿をあらわす。

リネール  人? 性別とかは?

GM  顔が見えないんでよく分からん。その姿を見ると、広間に集まった人々の口から、「ギル! ギル!」と歓声が上がる。

リネール  あいつがギルか。何故、顔を隠しているのでしょうね。

GM  ギルが片手を上げると、広場の人々は静まり返る。

ギル  ギルシティの市民よ! 今日、ワシがこうして姿をあらわした理由は分かっておろう。先日より市民の間で流れている救世主の噂、それが真実であることを知らせるためだ!

リネール  え? え? え? どどど、どういうことでしょう?

町の外のディック  落ち着けリネールはん(苦笑)。

ギル  その救世主は、3日後、3度の雷と共に現れるという。市民の中にはそれを待ち遠しく思うものもいるであろう。だが、待つ必要はない。見よ!

GM  ギルが北の空を指差すと、三度の雷が煌めく。市民はそれを見て驚嘆の声を上げるね。

リネール  どういうことでしょう? まさか幻覚? 《幻覚察知》してみましょう。

GM  さっきの雷は、幻覚によるものであると君は思った。

ギル  見たであろう三つの雷を! ワシはこのように雷をも操ることができる。すなわち、3つの雷と共に現れる救世主とは、ワシのことなのじゃ!

町の外ディック  (額に羽を当て)あっちゃー。ワイらの作戦が逆手に取られたか。

GM  その後も、邪術師は自分が倒した。市民は今まで以上に町の発展のために力を尽くしてくれという演説が続く。そこでリネール。ちょっと視覚チェック。

リネール  ・・・成功しましたが?

GM  じゃあ、ローブの下にちらりと見えたギルの顔。ありゃ君のものじゃないかね?

リネール  ・・・は?

町の外リューリック  まさか・・・

町の外ジェイル  未来世界のリネールか?

リネール  もしそうなら、直接会う機会を得られるかもしれない・・・

 

 リネールは、手持ちの羊皮紙にエルファ語で自分以外に知る由のない出来事を綴り、そして、自分は過去からきたあなただというメッセージと今夜紫の刻、テラスで待つと書いた。それを4枚、城最上階の、各部屋の窓に滑り込ませる。

 

GM  では、夜だ。紫の刻も近づいてきてる。

リューリック  一応、私たちもついて行きましょうか?

ジェイル  俺が《魔法の目》で見張っておいてやろう。

ディック  いや、人数が多いと、相手に警戒されるし、<魔法の目>もばれたらこっちが不誠実なことを企んどると勘ぐられる。ここはリネールはん一人に任せるべきや。

リネール  もしギルが私なら、話して分からない相手ではないはずですから、大丈夫ですよ。

ルミノール  むしろ、力押しは苦手ですよね(笑)。

リューリック  だと良いのですがね。

リネール  じゃあ、梟に変身してテラスへ向かいます。

GM  そこにはすでに、ローブを着た人物がいる。背丈は昼間のギルと同じくらいだ。

リネール  手紙は読んでくれたようですね。近づきましょう。

GM  すると、ギルは君に気付く。

ギル  ほう、その姿は・・・。なるほど、あの手紙の内容は全てが嘘という訳ではないようだ。

リネール  テラスに降りて、変身を解きます。

ギル  なるほど。確かにかつてのワシの記憶の持ち主にそっくりじゃ。もっとも・・・

GM  ギルは、自分の顔の上に手を滑らせる。

ギル  貴様はこのような目を持ってはおらぬだろうがな!

GM  ギルの目は瞳のない漆黒。

リネール  ゲルーシャ!?

GM  ギルのローブの下から、無数の触手が伸びてきたかと思うと、君の手足を縛り上げ、宙吊りにする。

ギル  何の目的が会ってここにきたのかは知らんが、この目を見た以上、生かしては返せぬ。

リネール  殺したければ殺せばいい。でも、私の仲間が《魔法の目》を通して一部始終を見ている。私を殺したところで、あんたの正体が町の人に知られるだけだと思うよ。

ギル  ・・・クッ・・・。

リネール  わかったら、解放・・・

ギル  クックックックック・・・ハーッハッハッハッハッハ! さすがはワシ。いや、ワシの記憶の一部となっておるものじゃ。肝も座っておるし、嘘も上手い。

GM  ギルは君を開放する。

リネール  フウ・・・助かった(苦笑)。

ギル  なかなか楽しませてもらったよ、過去のワシの一部よ。一体ワシに何の用じゃ?

リネール  その前に、あなたが何者なのか聞かせていただけませんか? 話を聞く限り、単純に未来の私というわけではないみたいですが。

ギル  ワシは銀の月の道具に取り込まれたゲルーシャに、エルファの記憶を移植した者。ギルーファじゃ。

町の外リューリック  冗談で言ったネタなのに、マジだったのか(苦笑)。

町の外ディック  その場の勢いで、GMがストーリー変えた可能性もあるがな(笑)。

 

 言うまでもなく後者が正解です。

 

リネール  一体、だれがあなたを造ったのです?

ギルーファ  そんなことは分からん。ワシの記憶にあるのは、かつておぬしの記憶じゃったものの一部と、この不毛の大地で生きてきた10年の記憶しかない。ワシのことはこれくらいで良かろう。お主の用件は何なのだ。

リネール  私たちがこの時代に来る直前にあったことと、この時代で集めた情報を話しましょう。それで、元の時代に戻る方法を探しているのですが、心当たりはありませんか?

GM  ギルはしばらく考え込むと、思い出したかのように触手を叩く。

ギル  恐らく、お主らが時間跳躍した場所に、向こうとこちらを繋ぐ何かがあるはずじゃ。魔力を感知するような呪文でもあれば、すぐに見つかるじゃろう。

リネール  ありがとうございました! さっそく仲間たちに知らせてきます。

ギル  ほう。あやつらも来ておるのか。記憶にあるだけで会ったことのない者と会ってみるのも面白いかもしれん。ワシもついて行こう。

リネール  う・・・微妙に嫌ですが、貴重な情報をくれた人を無下にはできませんね。

GM  ギルは君を触手で抱え上げ、宙に浮く。

ギル  さて、案内してもらおうか。

リネール  そのセリフは悪役が使うものですよ(笑)。

 

 ギルと共に、仲間の下へ行くリネール。最初はリネールを人質に取ったモンスターと間違え(いや、モンスターには違いないが・・・)攻撃を仕掛けようとしたリューリックたちだが、リネールが事情を説明し、お互い自己紹介をする。ギルは記憶として知っているだけの面々との出会いに感動し、一行との会話を楽しみながら一夜を過ごした。

 そして翌朝・・・

 

ディック  ギルはん。そろそろ町に戻らんと騒ぎが起きるん違うか?

ギル  安心しろ。今は影武者がワシの代わりをしておる。

ジェイル  影武者は、本物に成り代わろうとするものだ(笑)。

ギル  そのときの備えもしてある。案ずるな。

リューリック  私たちはこれから、あなたの言ったようにこの時代に来た時、現れた場所に行ってみます。

ギル  ワシがそこまで運んでやろう。歩くよりも圧倒的に速いはずだ。

ディック  ほな、お言葉に甘えさせてもらおうか。

GM  じゃあ、君たちはギルの触手に巻きつかれたまま空中を移動する。時速に直すと4キロくらいのスピードなんで、確かに歩くよりは速い。

ルミノール  移動が地形に影響されないのも大きいですよね。

ディック  しかし、ワイら全員合わせると500カガルくらいになるで。ようそんなもん持って動けるな。

GM  まあ、それについては君たちの知らない設定はたくさんあるからね。で、普通に移動すれば6日はかかる日程を、3日で目的の場所に辿り着いたわけだが、どうする?

ルミノール  魔法を探知してみれば、簡単に見つかると言っていましたね。

ジェイル  俺が《魔力視覚》を使おう。

GM  空間が歪んだような場はあるが、魔力を持った物の反応はない。

ルミノール  おや?

ジェイル  歪んだ空間に触れてみるが?

GM  触れた部分が視覚的に歪んで見えるが、それ以上のことは起きない。

一同  ・・・・・・。

リューリック  ・・・誰かが持ち去った可能性は?

ジェイル  それはあるかもな。

ディック  近くの集落へ行ってみるで。

ギル  ならば、ワシはここで待とう。

リネール  集落までは往復半日かかります。帰ってくるのは明日になると思いますが?

ギル  かまわん。こんなところでくたばるような、柔な肉体は持っておらんからな。

 

 一行は集落へおもむき、北で変わったものを見つけた者がいないか聞いて回る。すると・・・

 

ジーク  エル。そういえば三日前に、妙な石を持って来なかったか?

エル  ああ、あれ?なんか、銀の月のものっぽかったから捨てちゃったけど?

一同  それだ!

リネール  一体どこに捨てたのです?

エル  え~っとねぇ・・・

 

 エルに案内され、砂漠の中を捜すこと数刻、ジェイルの《魔力視覚》は砂の中に半分埋まっていた、輝く多面結晶体を発見した。

 

GM  ある面は正三角形、またある面は正八角形、他の面から見ると球体のようになっていて、さっきの面を見てみると形が変わっていたりする。

ディック  ほな、正√7面体言うことにしとこう(笑)。

ジェイル  多分、さっきの空間の歪みに、これをはめ込めば良いのだろうな。

エル  ねえねえ、それってなんなの?

リューリック  私たちが元の時代に戻るために、必要なアイテムですよ。

エル  ふーん・・・じゃあ帰っちゃうんだ。寂しくなるなぁ・・・。

ルミノール  エルさんも、私たちの時代に来てみませんか?

エル  う~ん・・・止めておくわ。興味はあるけど、兄さんを置いてはいけないし。

リネール  兄さん?まさかアンディ(笑)。

エル  だから、あたしはエフィじゃないって(笑)。ジークのことよ。あたし達双子の兄弟なんだけど、気付かなかった?

ディック  そういえば、二人はそっくりや言うとったのう・・・うん? 20代の双子?

リューリック  今日は集落で一泊させてもらって、明日、私たちが現れた場所に向かいましょう。

GM  そのほうがいいね。そろそろ暗くなってきたし、肉体的疲れはかなり激しい。

 

愛をとりもどせ

 翌朝。長老やエル、ジークに別れを告げた一行は、ギルの待つ時間跳躍の場へと向かう。

 

ギル  遅かったな。

リネール  まあ、いろいろありましてね。

ジェイル  じゃあ、√7面体をこの空間の歪みに重ねよう。

リネール  あ! ちょっと待っ・・・

GM  ジェイルが√7面体を置くと、まばゆい銀光があたりを包む!その光が収まったかと思うと、君たちは潰れた建物の中央に立っている。

ルミノール  ギュンター家の別荘ですね。

ディック  ようやく戻ってこれたで。

ギル  ほう。ここがお主らの生きた時代か。

一同  ・・・・・・。

リネール  だから止めようとしたのに・・・

ジェイル  やっちまったぜ(苦笑)。

ディック  でも、来れたいうことは、戻ることも可能やろ?

ギル  ふむ・・・。

GM  ギルは√7面体を拾い上げる。

ギル  魔力が相当弱くなっておるな。このままでは時間跳躍は無理だ。

リネール  どうしてくれるジェイル!ギルがいなくなると、ギルシティ無茶苦茶混乱するぞ!(ジェイルの首をガクガク)

ジェイル  おおお落ち着けリネール!

ギル  確か、ここから北西の地底に多足のものの地下都市があったはずだ。そこでなら魔力を回復させることもできるかもしれん。

リネール  ふう・・・よかった。

ギル  では、ワシは地下都市へ向かう。しばしの別れだ。

GM  ギルは触手を振りながら、地面の中へもぐる。

ディック  (手を振りながら)気いつけてな。

リューリック  さて、では我が家へ戻りましょう。どうか未来世界で過ごした時間と、こっちの時間がリンクしていませんように・・・。

ディック  リンクしとったら出産間近やな。そんな時に妻と一緒におれん旦那は最悪やで~(苦笑)。

GM  <中継都市>ジョルジュはここから乗合馬車で五日かかる。街道を行く人に日時を聞くと、未来世界で過ごした日数がこっちでも経っていることが分かる(笑)。

リューリック  あああ、最悪だ。

GM  そして、君たちが街に近づくと、警備員が君たち・・・というか、リューリックの方を見てひそひそと話し始める。

リューリック  気にしません! 気にしたら負けです。

リネール  私は聞き耳を立てましょう(笑)。

警備員A  (ヒソヒソ)あいつリューリックじゃないか?

警備員B  (ヒソヒソ)本当だ。子どもの出産に立ち会いもしないで、今までどこへ行ってたんだろうな。

リューリック  もう産まれてる!?

ディック  予定日までは、まだ日数あったはずやが?

GM  厳粛な判定の結果、多少だが早産してしまったのだよ。

警備員A  (ヒソヒソ)一緒の連中、リューリックの冒険仲間だろ? 子どもが生まれるって時まで、冒険してたんだぜ。

警備員B  (ヒソヒソ)かーっ! 最悪だな。あんな父親だけにはなりたくないぜ。

一同(リューリック以外)  (爆笑)。

リューリック  く・・・悔しいが、返す言葉もない・・・。

GM  では、カーナー家だ。玄関に入ると、まずはしゃべる絵画が出迎えてくれる。

ジェイル  そういえば、そんなものもあったな。

絵画  おや? リューリック様。今ごろお帰りで・・・

リューリック  急いでリアナの寝室へ向かいます!

GM  途中執事やお手伝いの横を疾走しながら、リアナの部屋へ向かうと、中から子守歌が聞こえてくる。

リューリック  (勢いよくドアを開けて)リアナ!

リアナ  あら、リューリック。ようやくお帰りですか(ニッコリ)。

リューリック  あ・・・あの~、その笑顔怖いのですけど・・・

リアナ  さあ子どもたち、はじめましてしまちょうね~、(ドスの利いた声で)出産四日目にしてよ・う・や・く! (優しい口調で)会いにきてくれた、おとうたんでしゅよ~。

一同(リューリック以外)  (爆笑)。

リューリック  あ・・・あはははは(渇笑)。

リアナ  ところでリューリック。この子たちの名前はもう決めてあるけど、(おどろおどろしい声で)文句はないわね!?

リューリック  あっても言えません(笑)。

後から来たディック  で、リアナはん。その子たちの名前はなんちゅうんや?

リアナ  エレミウムと、ジークムンド。エルとジークよ。

リューリック  ・・・え?

ディック  むぅ・・・やっぱりそうやったか。

ジェイル  俺は全然気付かなかった(笑)。

リューリック  ・・・出産に立ち会えなかった、せめてもの罪滅ぼしをするチャンスがありましたね。

リネール  ところで、今は何年、何巡り目の何日ですか?

GM  双月暦1112年。30巡り目の、緑の月の日だ。

ルミノール  後、百日程しかないですね。

リューリック  この子たちのためにも、歴史を変えて見せますよ。きっと・・・

 

大破壊発生まで、あと102日

続く

*1:魔法を使うために必要な、大気中のエネルギー。

*2:抵抗に失敗した範囲内の対象は術者に恐怖を覚え逃げはじめる魔法。

*3:オリジナルルール。扱いとしては、武器落としと脳狙いの攻撃を同時に行う全力攻撃に等しい。

*4:OVA北斗の拳の舞台。

*5:デザイナーの友野詳氏すら忘れがちだが、ルナルの「考古学」技能は銀の月関係の知識とガープスルナルに書いてある。